鏖(みなごろし)

夕闇に埋める人形玻璃はりの眼で色は毀れた光であった


レプリカの十字架の血は本物でそっといばらで包み薔薇刑ばらけい


氷には禁句があって解錠の呪文言うとき死と棘の花


手を引いて空気冷たい塔の上 君は頸動脈けいどうみゃくにキスする


摩天楼、削がれた神の脳が降る たぶれてふたり 舞いゆけ舞えよ


窓というカンバスのなか、空があり、雲の階段落ちる天使も


内蔵の歯車まわり嘔吐する 生きていくには粗末な躰


セパゾンは「天使工場」勤めする人形師かつ神の傑作


包帯はへだてであったKrankeくらんけをナマの瑕から癒着させない


瑕を縫うたびにぬいぐるみになって鏡の中に肉塊にくかいがある


「青い字は血で詩は幽霊」君が言う 今宵は嘘ばかり美しい


死の卵としての君はひび割れてハンプティ・ダンプティ落ちていくのか


雛鳥ひなどりの名は「死」といい親である君の姿に少し似ている


産まれたて「死」の雛鳥を抱きしめて少年雨の街に消えゆく


青かえで、小さな手のひら罪にぬれ きっと歩いた事ある道だ


蓮の葉の露を匙にて割る時に腕引くいとが絶たれた人形


薄衣うすぎぬのような歌声ひとくさり 陶器人形たぶれつつ夜半よわ


血痕を辿れば水族館の奥死体があると知りつつ通う


少年の肋骨のうち火を灯し遠い旅路を歩くはじまり


名を忘れるまで手術を繰り返し君はいくつの世紀を経たか


火――また――火に渡る少年、蕩尽とうじんは天馬としての体が咎め


氷なるひつぎは厚くその奥で火花が散った 罪をほっして


全て焼き尽くしてから行く墓としてメイベルの名を刻んだ日記


どうせ毀れるまで光れない 手錠型星と手首が作る水紋すいもん

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