♯02 ブラック奥さん

むかつく。

むかつく。


何もかも。

いや。


いやいやいや。

うんざりなんだってば!


今朝、夫が出勤する時。


ネクタイの色が気に入らないと。

何度も取り換えて。


結局。

最初のネクタイをしめて。


夫は。

玄関を飛び出していった。


「おかげで遅刻しちゃうよっ!」

捨て台詞を残して。


バタンと。

大きな音で扉は閉まった。


※※※※※※※※※※※※


むかつく。

むかつく。


何もかも。

いや。


いやいやいや。

うんざりなんだってば!


朝の出来事を思い出しながら。

スーパーでの買い物。


今日の夕食は。

夫の好きなグラタン。


・・・に、しようと思ったけど。


むかついたから。

夫の嫌いな野菜炒めにしよう。(笑)


意地悪な笑みを浮かべる私の前を。

肉売り場で佇むおじいさんがいた。


パックの値段を比べているのか。

真剣な眼差しで睨んでいる。


一瞬。

イラっとした。


私は待たされるのが嫌いだから。


いっそ。

割り込んでみようかしら。


そう、思っていたら。


ふいに。

夫の顔が頭に浮かんだ。


悩んでいるおじいさんが。

何だか、可愛く思えたから。


必死に食事のことを考えている。

それは、意外と嫌じゃなかった。


私は肉の代わりにソーセージを選んで。

夫の好きなグラタンと一緒に籠に入れた。


※※※※※※※※※※※※


「うめぇー・・・!」

満面の笑みを浮かべる夫のリアクションを。


私は頬杖をつきながら眺めていた。

夕食に出されたグラタンに夫は目を輝かせて。


「今朝はゴメンな・・・」

ポツリと呟いたのでした。


その一言で。

私の気持ちは白く染まったのです。


私の口元は。

きっと、笑みを浮かべていたでしょう。

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