ドンドンドンドングリス
ロード画面が終わるとバス停のようなところにスポーンした。
かなりローポリゴンで、壁のテクスチャも粗い。緑色のバスが止まっており、あやめさんが座ってーと呼びかけ、三人とも座席に座る。画面が暗転し、目の前にすこし古い雰囲気の遊園地が現れた。ワールドでは全く同じリズムの音楽が流れていて、ちょっと怖い。
あやめさんが
「ここのアトラクション全部乗れるんだよー」
と赤色のメリーゴーランドにぴょんぴょん走っていく。
メリーゴーランドに乗ると、何故かあやめさんだけ外にいて、3人が乗ったタイミングでその場にあるボタンを押すと、僕たちが乗っているメリーゴーランドが急加速する。
とんでもない勢いで、現実なら遠心力で弾き飛ばされそうなぐらいだ。VRじゃなくてよかったと心から安堵しながらも、モニターを見るとおかしくなりそうだった。
メリーゴーランドを降りた後も、軸が外れて飛んでいく観覧車や、レールが外れて空を駆け回るジェットコースター、ヨルノさんの叫び声と、目をグルグルマークにしているパンさんに、悪そうに爆笑してるあやめさん。
ああ、凄い楽しい。
こんな風に楽しんでみたかったんだ。
アトラクションを回り終わり、二人ともフラフラだ。VRだからさぞかし辛いだろう。
ヨルノさんはもうやだ〜と叫んでいて、
「休憩時間とった理由ってコレかよ~!」
とさらに恨み言を言っている。
僕はちょっと笑ってしまったのが聞こえてしまって
「今のが楽しかったのイトウさん?すごくないすか?」
ヨルノさんが引き気味に言ってくる。
「アトラクションよりもヨルノさんが面白くて…」
「ひどい!」
横のパンさんも笑顔になって少し頭を振っていて、笑っていることがわかった。
「みんなごめんって、ほら、最後に集合写真撮ろうよ」
あやめさんがなだめながら最初にこのワールドの入ってきた所の立て看板に向かって歩いていく。
仕方ないな、みたいな雰囲気がふわりと漂い、4人で立て看板に向かう。
遠くに映る飛んで行った観覧車、画像が荒すぎてぎざぎざの灰色のフェンスに、同じような形をしたローポリゴンの木、そして腰ぐらいまでの高さの看板の後ろに横一列に並ぶ僕ら。
笑顔のキーを押して、自分の笑顔をミラーで確かめる。
左手を挙げるあやめさんがカメラを起動する。
そしてパシャっと何度も音が鳴り、ポーズをとった4人を収めた。
あやめさんが、僕たちに向かって話しかける。
「今日はありがとね、何か困ったこととか合ったらまた俺のインスタンスにきてもらっていいからね~」
現実世界では、もうだいぶ夜が更けてきた。
僕はこれで今日の集まりが終わると考えると悲しくなったが、気持ちを切り替えて感謝の言葉を述べた。
「今日はありがとうございました、初めてで緊張したんですけど、楽しかったです」
ちょっと照れくさくて、現実で髪を掻いた。
そのあとあやめさんがいなくなったので、ヨルノさんが話しかけてくる。
「明日も遊ぼうね、イトウさん、パンさん」
パンさんがコクコク首を激しく振る。僕も真似してマウスを縦に動かして、アバターの首を動かす。
ヨルノさんがぽつりと
「またね」
そう言って消えていった。僕は嬉しくなった。その三文字が僕の心に滲むようだった。
寂しいが、僕も今日はもう寝よう。横にいるパンさんに向かって、
「パンさん、今日はとっても楽しかった。またね」
パンさんが笑顔で手を振る。なんて優しいんだろう。
そしてメニューを開いて、電源のマークを押して、アプリを閉じた。
寝る前に情報収集用のアカウントの名前をイトウにして、アカウントの画像を今日とった写真のラスクちゃんにする。
そして、SNSにあやめさんに教えてもらったハッシュタグをつけて、今日みんなで撮ったチュートリアルワールドの僕たちが並んだ画像をアップした。
そのころにはもう眠気は限界で、慣れない人とのコミュニケーションをしたせいか、ひどく疲れていた。PCの電源を切り、布団に倒れこむ。
瞼を閉じると今日遊んだワールドや出会い、思い出がフラッシュバックしてとても楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます