ラスク

ブラウザを開き、検索エンジンから人気のアバターを調べる。

「なりたい自分になれる」

どこかでそのようなフレーズを聞いたことがある。

別になりたい自分はいない。トランスジェンダーでもないし、自分の容姿に不満があるわけでもない。美少女アバターを使う理由は、僕はただ他人と関わりたいだけで、それこそ周りになじめるならなんでもいいのだ。そんなキラキラした感情は持ってない。

むしろ他人と関わる自分を欲しているだけなのだから、他人と関われるアバターはなりたい自分だと言える。

出てきた画面を見ながら、アバターのサムネイル画像を見てマウスホイールを転がす。

ネット上でのいわゆる性癖みたいなものはなく、かといってリアルで女性と付き合ったことも、クラスなどで魅力も感じた女子などもいなくて好きなタイプもわからない。

マウスホイールを十数秒転がして目に留まったのは、淡い水色の髪の毛をしたネコミミが生えている中性的な女の子だった。中性的であまり女の子らしくないのは自分にとって好都合だった。サムネイルをクリックして全身の画像を見る、女性のゲーム配信者のような服で、黒が基調のデザインですこしダボっとした服だ。昔アニメを見て、赤に近いピンク色と少し希望のような白が混ざったような感情を抱いた。

数枚ある商品画像を流し見して、値段を見た。

高いプレゼント用のお菓子のセットが2つ買えるぐらいの値段だ。別に現在の金銭状態なら勢いで支払ってもいいような金額だったので、すぐに購入ボタンを押した。

名前は…ラスクと言うらしい。

支払いを済ませるとすぐにデータがダウンロードされ、データを解凍してから購入したファイルに同封されていた利用規約のテキストデータを読む。

意外と利用規約は緩いようで、個人利用ならほぼ何をやってもいいらしい。

本体のデータをVR空間のほうにアップロードする作業も技術記事を見ながら見よう見まねでいれることができた。

もう一度デスクトップ上のアイコンをクリックし、アプリを開く。

ロードは今度はすぐに終わって、モニターに昨日のあの空間が映った。少し歩いて鏡の前でメニューを開き、アバター関連のメニューを押す。そこからアバターを読み込むと、水色のひし形のような読み込みが入り、気づけば仮想の自分の体は購入時にみた、あの美少女に成っていた。

マウスを握る手が少し力んだ。背徳感ではないが、何かが背中の毛を撫でるような感覚が背筋からせりあがる。

添付されている説明から、キーボードで小さい表を開き、マウスを動かして表情を変えてみる。かなり種類があり、使いきれないと思いながら、一個一個鏡で確認してみる。

終わったころには少し、リアルの自分の口角が上がっていた。

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