第29話

いつも貼っていない『ワープロ部』と書かれたポスターが扉に貼られていた。

扉を開こうとしたとき、

「真由香!何考えてるの?」

と部長の怒号が聞こえた。

肩が跳ね上がった。開こうとした手を下に戻した。

今、開けると巻き込まれると分かったからだ。

早く誰か来てほしい。

少しして、寒川先輩がやって来た。

部室の前でうろちょろしている私に声を掛けてくれた。

「佐々木さん。何してるの?」

と。

「部室が入りづらいです」

私は素直に答えた。

「そうなんだ。…もしかして、あの二人喧嘩してる?」

「はい」

「止めないの?」

「止めづらいです」

「ふーん。怖いの?」

「怖いです」

「そう。じゃ、俺と一緒に止めよう」

「えっ?なんでっ」

言い終わる前に扉が開いた。

そこには腕組みをしている先輩と、涙目に鳴っている部長、それに2人の間で困惑している千紗達がいた。

いつもなら、部長は

『こんにちは』

と挨拶を返してくれのに、先輩との口論で気づいていない。

―なんであの二人仲が悪いんだろう。

「未来の部長。今こそ喧嘩を止めるべきだよ」

寒川先輩が後ろでぼそっと呟いた。

私はすぐに首を曲げ、聞く。

「なんですか、未来の部長って」

「俺君を部長に推薦するから。そう言った。それより、早くあの2人を止めなきゃ。今、ここに1年生が来たらどうするの?」

またぼそぼそと言っている。

「寒川先輩が止めればいいじゃないですか?」

「俺は嫌だ」

はっきりと応えた。

「なんでですか?」

「嫌だからだ」

「…、一言何か言ってください」

苛立ちを込めながら言う。

「佐々木が言ったほうが伝わる」

「なんでですか!」 

何回か同じやり取りした後、私が折れた。

その間も先輩達は口論をしている。

部活動外のことを。

「頑張れ」

他人事のように寒川先輩は応援してくる。

鬱陶しい。

…発表の時よりも緊張している。

手が汗で濡れかけている。

一度息を吐き、思いっきり息を吸う。

そして、私はお腹から声を張り上げた。

「‥何しているんですか!先輩達!」

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