第11話 五人殺さなきゃ死刑にならない

江崎と渡辺を殺害した後も小林は車内で「一人は死んだかもしれんけど、もう一人は唸っとったな。とどめ刺しとかなかんて」などと言い出し、運転していた重住に車をUターンさせて現場へ戻らせた。

しかし現場付近に車が止まっていたためそのまま通り過ぎている。


彼らはあれほどの暴行を加えておきながらまだ不安だったらしい。

また芳我もミラの車内で小森から「死んだのか」と尋ねられ「片方は死んだ思いますけど、もう片方はわからんですわ」と答えたという。


この頃には立て続けに何の落ち度もない四人もの青年を虐殺した三人、特に小林はさらに歯止めが効かなくなり出していたようだ。

小林はグループの仲間である藤川が江崎や渡辺へのリンチの時にずっと「もうやめときゃー!」とか「死んでまうて!!やめやあ!!」とか言っていたのが気に入らなかった。

後に「女どもよう、あれんたマッポにタレこむんと違うか?」と他の者たち、岡田のリンチに参加した高澤や林などに話し、「あれんたも殺ってまわなかんて。一人殺すのも百人殺すのもいっしょだで」とも言い出した。


この発言に高澤も林も「何かあったら自分たちも殺られる」と思ったのは無理もない。

現に仲間だった岡田を殺しているからだ。

恐れをなした彼らは町田や藤川にもそのことを話したらしい。

後の10月13日に彼らはそろって自首することになる。


一方、中学の同級生の江崎と渡辺と共に拉致されて両名が殺された後も小笠原は解放されず、死の恐怖をたっぷり味わいながらシビックの車内に監禁され続けた。

長良川で二人を殺した後彼らはコンビニへ移動した10月8日2時30分ごろ、小林は同店で小森と芳我に「俺ちょっと用事ありますだで、別行動しましょ」と言った。


「押し付ける気か」と思った小森は兄貴分を自認する手前、「全部俺らにやれ言うんか」とキレ気味に言ったが、小林はひるまない。

どころか小森よりずっと危険な男だった。


「なら俺もやりますわ」と言うや、同コンビニ駐車場にあった細いアルミ製パイプで小笠原の頭を殴り始めたのだ。


「もうええ。俺らがなんとかするわ」


ここで殺るのはかなりまずい、小森はここで折れた。

その代わり小林には小笠原の乗っていたミラの処分を命じ、小林は重住とともにミラを近くの役所の施設駐車場に移動させ、車内へ指紋を消すための消火剤をまいて放置した後、林や藤川とともにタクシーでその場を去る。


小笠原を監禁していたグループは小森と芳我、運転手の重住の三人になり、一行は小笠原を連れて大阪に向かう。

この面子の中で相変わらず元気がいいのは芳我だった。

車内で小笠原に対し「琵琶湖に沈めたろか」とか「瀬戸大橋からダイブさせたる」とか脅し、持っていたなけなしの現金と安物の腕時計を奪っている。

小笠原は目の前で同級生を殺されていたばかりだったからさぞかし生きた心地がしなかったことだろう。


四人を乗せた車は6時ごろ大阪南港へ到着。

芳我が車内で呑気に寝ている間に、小森は一人でどうするか考えた結果、小笠原を解放することに決める。

驚くべきことに小森は、日本では五人殺さなきゃ死刑にならないという思い込みがあったからだ。


「あいつ逃がす」小森は重住に命じて大阪市内の天王寺駅方面へ向かわせる。

途中目を覚ました芳我に「なんで殺らへんのですか?」と反対されもしたが、最終的には兄貴分の命令に従った。

8時30分ごろ「帰りの電車賃や」と4,000円を渡し、近鉄難波駅付近の路上で解放。


小笠原は五人目の被害者になることは免れた。

だが、手ひどい暴行を受けて全治一週間のケガを負っており、何より目の前で同級生を惨殺された後に長時間死の恐怖にさらされたために心的外傷が甚大であって、今なお払しょくできていないであろうことは想像に難くはない。

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