第10話 立て続けに奪われる命

江崎たち三人を拉致した小林ら七人は二台の車に分乗して人気のない場所として江南緑地公園へ向かっていたが、それぞれの車内で殴りつつ金品を要求した。

彼らをさらったのはカツアゲが目的なのである。


小林は重住が運転するシビック内で小笠原を殴りながら財布から現金を奪い、「おめえの車俺んたによこせて」と要求。

暴行に怯える小笠原は無茶苦茶な要求にも「はい」と言われるがままだ。

元々小笠原の乗って来たミラの中でも芳我が「財布出せや!」と江崎と渡辺を脅し、渡辺からは八千円を奪い、恐喝の目的はそれぞれ順調に果たした。

だが、これで終わりではなかった。


22時30分ごろ、シビック・ミラともに江南緑地公園の木曽川左岸駐車場に到着。

小笠原はそのままシビック車内に監禁された一方で、江崎がミラの後部座席ドアを開けて逃げ出そうとするハプニングが起きる。

「ナニ逃げようとしとんじゃワリャ!」腹を立てた芳我に江崎は顔を足蹴りされ、「オメエも同罪や」と渡辺にも蹴りをくらわす。

小林も二人を交互に殴る。

「うう、すいません」と悪くもないのに謝る彼らの目の部分を集中的に殴るなど人を殴り慣れた小林の暴行は止まらない。


「このカードから金下ろさせようや」と小森は渡辺のカードを見せながらそろそろお開きにすることを提案したが小林は止まらない。

「こんな顔で返したら通報しますだでね」と徹底的にやるつもりなのだ。

江崎と渡辺の顔はもうボコボコに腫れあがって「もう勘弁してください」と懇願しているのにも関わらずまだやる気である。

芳我も小林から「こっちの車に乗っとる奴態度ムカつくんだわ」と言われて、シビックに乗せられている小笠原の顔面を蹴り上げるなどリンチになると威勢がいい。

だんだん何度も繰り返してきた最悪のパターンになりつつあった。


しかしこの日は週末。

公園駐車場付近にはデートのためかカップルが乗ったとみられる車が見られるようになったため、場所を変えることになった。

まだまだ痛めつけなけらばならないと考えていたようだ。

引き続きシビックに小笠原を、ミラに江崎・渡辺をそれぞれ乗車させた上で車に乗り込んで駐車場を立ち去り、再び人気のない場所を探して移動を開始する。


その途中に立ち寄ったコンビニの駐車場で、小林は壊れたフェンスの支柱部分とアルミ製のパイプを拾い、これを使って殴ることを思いつく。

芳我も他に適当な凶器がないか探したがこれだけで十分だろう。


だが、小森の方は小林に少々不満を感じ始めていた。

重ね重ね自分が最上位の兄貴分なのにいつも小林が突っ走って自分たちを振り回す。


「あいつ今日もやる気やで」

「昨日もやったのに今日もですからね」

「ええ加減にせえっちゅうねん」


かと言って兄貴分らしい鶴の一声も出せない小林はこの移動の際に車内で芳我相手に不満らしきことを話していた。

彼らもまた殺すつもりであることを悟っていたのだ。

そしてそれを止めようという気もなかったようである。


一行は一旦は岐阜県こどもの国まで行ったが、人家の明かりが見えたため岐阜県安八郡輪之内町楡俣92番地の長良川右岸堤防に転ずる。

「堤防でやってまおう」ということになったのだ。

日が変わった10月8日1時ごろ、長良川の堤防道路待避所にシビックを停車させ、追従して走行していたミラも止まった。


芳我が凶器のパイプ片手に江崎を引っ立て堤防の下へ向かったが、ここで江崎がまたしても必死の逃走を開始する。

しかしすぐに捕まり、命運が尽きた。

降りてきた小森は逃げたことを知るや激怒し、芳我から受け取ったパイプで頭、上半身、手を剣道の面・胴・小手の要領で殴る。

その後は芳我によって逃げた罰として足を中心にパイプで滅多打ちにされ、江崎は血に染まった足を抱えてのたうち回る。


渡辺も小林に外に連れ出されて堤防から河川敷まで蹴り落とされ、小林にもう一本のパイプで頭を狙った打撃を加えられた。

そして、ここで無抵抗だった渡辺が思わぬ行動に出てくる。

あちこちにパイプを打ち下ろされながらも「なんでこんなことされなきゃならないんだよ!」と自分の足につかみかかってきたのだ。

この行為に小林は激怒、「やんのか?オラ死ね!死ね!死ねええ!」と暴行に拍車がかかる。


このころ、車内に監禁された小笠原の耳にボコッ、ボコッという鈍い音が響いて来ていた。

ハンドルを握る重住は小笠原に「あの音分かるやろ?今の、頭いったんちゃうか?」「あの人ら極道やで、やることハンパちゃうでな」などと脅す。


「ああ、もうあかんて!やめときゃーて!!」


手でかばった頭にパイプを集中に打ち下ろすという、完全に殺すための暴行になっていたのに顔を青くしたのは女の藤川だ。

この前岡田を殺したばかりなのに、まだやる気であることにおののいていた。


「もうやめやあ!」しつこくパイプを打ち下ろす二人の所へ行って制止しようとするが、小林に「オメエもやったろか」と凄まれてしまう。

藤川は堤防上に上り、付近にいた重住と林に「止めたってよ」と言ったが、「俺んたじゃかんて」などと言って頼りにならない。

小森に訴えたら「オレがやめろ言うてるて伝えろや」と言われたのでその旨を小林と芳我に伝えたが、「オレが責任取るでええが!」と言われ、再びパイプを頭に打ち下ろし続ける。


もう江崎の方は動かなくなっており、渡辺もうなり声をあげているだけで動きがほとんどない。

二人とも頭は血で真っ赤に染まり、衣服はビリビリに破れて血がにじんでいる。

この後、頭蓋骨が陥没し、手は打撃を防ごうとしたために骨がバキバキに粉砕され、大腿骨や肩の骨など多数箇所を骨折していた江崎と渡辺は組織間出血で失血死することになる。


何らさしたる動機もないのにまたも、そして二人もの命を奪った小林たちは車で現場を離れた。

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