第6話 死体の遺棄と逃走
翌日の9月29日未明、親分である川田賢一が事務所に顔を出すと、小森が待ってましたとばかりに出迎える。
「おやっさん。これちょっと見とくんなはれ」小森は念入りに痛めつけられた林正英のむごたらしい死体を川田に見せた。
「なんや?これは?」
「いちびっとった奴しめとったら死によったんですわ。どないしましょ?」
「何しとんのやお前ら…」
コテコテのヤクザである川田は子分たちが何の罪もない者をさらって虐殺したからといってショックを受けるわけはない。
ただ、「世話焼かせやがって」とは思っていた。
「とにかくほかしに行くしかないやろ。まず布団にくるめや。あ、あ、口から何か出とる。ガムテープもう一枚貼ったれや。きったない」
川田は冷静に小森ら四人に指図して死体を布団にくるんでガムテープで固定させる。
「捨てに行くから、浦、小林。お前ら一緒に来いや」と自身の運転してきた車のトランクに死体を積み込ませて小林と浦を乗せ、死体の遺棄に向かうことになった。
川田は子分の不始末の尻ぬぐいを自らしてやるんだから何とも面倒見がいいヤクザだが、手下にしたはずの十代のガキどもに何となくいいように振り回されている気も大いにする。
川田は徳島県出身、四国に死体を捨てれば足がつかないと考えて六甲アイランドフェリー埠頭(神戸港・兵庫県神戸市)から徳島港行きのカーフェリーに乗船して四国へ渡った。
この1994年当時はまだ明石海峡大橋は完成していなかったのだ。
一行は死体を捨てる適当な場所を探して国道55号を南下、高知県まで来て室戸岬で海に投棄しようとしたが台風26号が接近しており、未明から海の荒れ具合を中継しようとしていた地元テレビ局の取材陣が多数いたために断念。
室戸岬から土佐湾沿いに国道55号を約30 km西進し、同日午前5時くらいに急なつづら折りの林道沿いで死体を林道ガードレール越しの斜面へ放り投げた。
後に逮捕されて、この事件が発覚してこの時の心境を聞かれた小林は「明け方の土佐湾が印象的だった」と語っており、何の恨みもない人間をなぶり殺しにしたことについて何の自責の念も抱いていなかったようだ。
それが証拠に2日後の1994年10月1日19時ごろ、小林は浦とまたカツアゲを行う。
道頓堀一丁目の路上でヤンキー風の高校生三人に因縁をつけて恐喝。
「俺はヒト殺したことあるだでな」などと脅し、ネックレスや現金を脅し取った。
ハッタリではなく、実際に殺して間もないから迫力が違う。
高校生のヤンキーごときが太刀打ちできるわけがなく、三人ともすくみあがってやられたい放題だ。
そして小林は人をいたぶるのを楽しんでいた。
「お前なんだてさっきから?ケンカしたいんかて?」と三人のうちの一人にからみ始める。
「ナンもしてないやないですか!」と嫌がる高校生をたまり場の「事務所」に連れ込み、小森や芳我も加わって殴るわ蹴るわ。
「これでやったろか!」と包丁を突き付けたりして大いに怖い思いをしてもらう。
だが、彼らも油断していたようだ。
林のように縛ったりしなかったために隙を見た高校生にその後逃げられてしまったのである。
これがまずかった。
その高校生は不良っぽいいでたちをしていたがシャバ僧であり、おっかない奴らにやられたとパパとママに言いつけ、通報したのだ。
結果、浦が翌日の10月2日にパトロール中の南警察署署員に強盗致傷容疑で逮捕され、事件の捜査のため「事務所」へ大阪府警による家宅捜索が入ってしまう。
この時小林、小森、芳我は偶然にも外出中であり、警察が事務所に来ていることを知った三人は大慌てで逃走を図った。
10月4日、とりあえず三人は兄貴分の小森の提案で近鉄南大阪線に乗って大阪府松原市へ向かう。
小森はこの街に土地勘があったのだ。
だが、逃走には金が必要である。
彼らはまず同市内のパチンコ店に遊びとカツアゲを兼ねて入店した。
ターゲットとなるのは例のごとく不良っぽい、それも中途半端な奴。
いたいた、「アイツなんかええんちゃうか」というのがパチンコ台に座っている。
その男、重住和敏(20歳)は定職がなくブラブラしていた男。
最初三人は重住から金を脅し取る予定だったのだが、最初のジャブとして親しげに話しかけて何かの拍子に言葉尻をとらえて因縁をつける前に、重住が「オレも仲間に入れたってください」と言い出したために予定が変わる。
どうせろくに金を持っていないだろうし、自家用車として白いホンダ・シビックを持っていたから運転手として使おうと考えたようだ。
もっとも、重住はこのパチンコをしていた時にむりやり運転手にさせられたと逮捕後に語っているから、そっちの方が自然であろう。
足と新たな舎弟が手に入った小森は重住に「これから運転手やったら女も紹介したるし、飯も食わしたるで。どうせヒマやろ」と鷹揚だったという。
その後、次の逃走先として小森は奈良県を目指そうとしたが小林は自分のお膝元である愛知県へ行くことを主張。
何しろ人を殺したんだから関西だとまずい、という説得力のある根拠を示した。
愛知県から大阪市に来たのはカツアゲ事件の捜査から逃れるためだったが、もうほとぼりは冷めたと判断していたようだ。
こうして一行は愛知県に向かうのだが、そこでさらに凄惨な事件を立て続けに起こすことになる。
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