第2話 大阪に高跳びする小林
愛知県津島市での強盗致傷事件の後ほどなくして、小林正人は高跳びを決行する。
愛知県一宮市出身の小林は地元で恐喝や傷害などの悪さを重ねすぎ、かねてより尾張地方の愛知県警各警察署に動きをマークされていた。
地元にこのままいたら捜査の手が及ぶのは時間の問題だと気づいていたのだ。
事実、小林は津島市の事件でこの時県警に指名手配されていた。
小林が向かったのは大阪府大阪市。
名古屋は息をひそめるには田舎すぎるし、愛知県警の縄張りである。
東京は遠すぎるが大阪なら近いし、潜伏するにはそれなりにふさわしい規模の都会だからだ。
それに小林は大阪でヤクザになる気だったようである。
彼ほどの不良だから当然地元組織の事務所に出入りするなど、一宮市のヤクザとのコネはそれなりにあったようだが、やはりどうせヤクザになるなら本場の関西でと考えたのだろうか。
大阪に着いた小林がとりあえず向かったのは市内のパチンコ店。
適当な台と恐喝の獲物を探すのを兼ねて店内をうろつく。
その時、店内をあちこち睨むように歩き回る小林に目をつけていた男がいた。
「なんやあいつは?見かけん顔の奴っちゃな」
男の名は小森淳(19歳)、小林と同い年(学年的には一コ下)だ。
小森は小林ほど荒廃した家庭の出身ではなかったが中学二年でグレて卒業後に進学した定時制高校を中退、二年前に女を通じて知り合った山口組系山健組内山本組組員の川田賢一(45歳)の舎弟になっており、すでに一人前の組員気取りであった。
ヤクザとしての自覚が大いにある小森は、自分の縄張りと思っているパチンコ屋に入り込んだこの同い年くらいの見知らぬ奴をそのままにしておくわけにはいかない。
だがそいつは見たことのないくらいヤバそうな奴だった。
真正面からケンカを売るのは得策ではなさそうだ。
少々不本意だが、敵対的ではない方法で行こう。
「よーう。ジブン見かけん顔やな?地元どこなん?」と話しかけた小森は「オレは山健の組で世話になっとるモンやけど、菱の代紋の」と、念のため自分の背景をちらつかせて防御線を張った上で、この危険そうなよそ者に声をかけた。
いきなりガラの悪そうな地元の奴に声を掛けられ、「ケンカ売りに来たのか?」と構えた小林だったが、相手がすでにヤクザ関係者だと知ると態度を変える。
そして「山口組のヒトか。オレもヤクザになろう思っとってな。オレも入れてくれて」と頼んだ。
いきなりそんな頼みをしてきて意外だったが、「ほんならちょっとオレの兄貴に会わしたろか」と、この初対面のヤバそうな奴を自分が世話になっている川田の所に連れて行くことにした。
小林が川田の下に入れば、小森の下の人間ができることになる。
それは歓迎すべきことでもあった。
「兄貴てどんな人なん?」
「半端なヒトちゃうで。殺人罪で13年懲役行っとったくらいやからな。二年前に出てきはったんや」
小森が心酔すらしているヤクザの川田は自分の女がママを務める難波千日町のスナックにいた。
小森は「川田はん。こいつ小林いうて、さっきパチンコ屋で知り合うたんですけど。ヤクザになりたい言うとるんですわ」と紹介し、小林もこの本物のヤクザ相手に「オレも舎弟にしてください」と殊勝に頭を下げた。
「おう、そうか。んで、わりゃあどっから来たんや」「えと、愛知の…どこやった?」「一宮。名古屋の近くの」「名古屋か」
川田としても自分の手下が増えるのは大いに結構なことである。
自分の配下に加えることを鷹揚に快諾し、自分が借りた千日町にあるビルに小林を寝泊まりさせることにした。
そこのビルには小森以外にもう一人同い年の浦雄一(仮名・19歳)がおり、小林の立場は川田の手下になった順番で小森→浦→小林となる。
首尾よく大阪でヤクザの手下となりねぐらを確保した小林だったが、川田は三下ヤクザだから金は小遣い程度しかもらえない。
だが、小林は日本中どこでも金を得る方法を知っており、その達人でもあった。
その方法は決まっている。
カツアゲだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます