第10話 第1部完

 モーリーは王都に向かう馬車に揺られていた。馬車の周りには雇った冒険者三十人がいて、魔物や強盗から守ってくれている。


 窓から外を覗くと、分厚い筋肉に、殺傷力だけを追求したような無骨な剣を背負った男が、馬に乗って併走している。目を少し前に向ければ、同じような人たちがずらりと列を出している。


 中に目を向けると、チャーリーとフェリスがニコニコ顔で二人の世界に入り込んでいる。


 ポーションを渡せばいいと思ったら、連れていかれるなんて。クレアもシェルも驚いてたな~。




 現実逃避をしていたら、城の一室についていた。部屋にはモーリーとチャーリーとフェリスの三人だけ。


「さっそくポーションを頼む」


 そう言われて、モーリーは『傷薬』を使う。首つりのときはと違い、最高のポーションを創り出す。


 できたのは、緑色の液体のポーションだ。少しだけ液体が発色している。


 うーん、何度見ても神々しい光りだ。父さんも母さんもぼけっとした顔でポーションを見つめている。


 ハッと我に返ったチャーリーがポーションを受け取ると、そのまま部屋を出て行った。


 それから少しして、勢いよく扉が開く。


「二人とも、王様に会いに行くぞ」


 は?




「よくぞ息子の命を救ってくれた!」


 転生してからは見たこともないほど豪華絢爛な服を着た初老の男性が、目に涙を浮かべている。


「我が息子・モーリーのおかげです」


「王として……いや、ひとりの父として礼を言う。我が息子を助けてくれてありがとう、モーリーよ」


 この国の王様が頭を下げるのを前にしたモーリーは慌ててしまう。


「いえ、頭を下げないでください。ポーションを出しただけですから」


「いや。お主のおかげで息子の命が助かったのだ。聞けば、お主たちの家に強盗が入ったと。それもモーリーが退治したのだろう?」


「ああ、はい」


「あれは国家転覆を狙う貴族の行動だ。殺さずに捕らえてくれたおかげで、黒幕がわかる。すまぬな。あれは我がチャーリーに頼んだばかりに……病気を治すものがないとわかっていても、不安は消したかったのだろう」


 あれってそういうこと。ってか、この国ってそんな危ないこと起きてたの?


「本当に、チャーリーが王家の御用達でよかった」


「いやいや、つい最近商会乗っ取られそうになりましたが、それもモーリーのおかげで助かったんです。いやあ、あのときは死ぬしかないと思いましたよ」


 は!? 首つりってそういうこと? ってか御用達! うちってそんな家なの!?


「息子も無事だし不穏分子も一掃できたし、我が国は安泰だな」


 室内に響く王様の高笑いを危機ながら、モーリーの頭はパンク寸前だった。


「しかもモーリーと息子は同い年。友達として仲良くやってくれ」


 モーリーはただただ乾いた笑顔を浮かべるのみだった。


 王様の友達!? 平穏に暮らしたいのに、なんでこんなことに!?




一部 了

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え? 生活魔法がチートなんですけど…… 桜田 @nakanomichi

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