第6話

 ピピピピ……ピピピピ……。


 頭の中で鳴ったアラームで目が覚める。窓から日の光が入り込んでいる。


 止める。


 そう意識すると、モーリーにしか聞こえないアラーム音が止む。このアラームも、生活魔法のひとつだ。毎日決まった時間になるようにセットしてある。最初は、アラーム音が頭に直接響くなんて気持ち悪くなりそうだな、なんて思っていたけど、チートの効果なのか音を不快に感じない。


 一日寝ちゃってたのか。あ、珈琲も飲みかけのままだ。珈琲を見ると、喉の渇きを覚える。


 ベッド横にあるサイドテーブルに置かれた珈琲を飲む。


 まず。冷めてるし、苦さがすごいし、あと、味が変……ミルクが腐ってる?


 モーリーはスキルで、息がなくなったチャーリーを助けたときと同じ最高級の傷薬を創り出して、それを飲む。


 これで下痢になることはないかな。


 腹を下すかもしれないからと、大怪我大病なんでも治せるポーションを飲んでいることをほかの人が知れば、怒りを通り越して呆れるしかないだろう。


「やっぱりポーション飲むと、すぐにスッキリするな」


 これ、前世で欲しかったな……。


 ポーションが創れるとわかってからは、モーリーは毎朝ポーションを飲んでいた。おかげで、病気知らずだ。


「着替えよ」


 タンスから、着替えの服を取り出して、さっさと着替えはじめる。


 脱いだ服どうしようかな……。


「生活魔法で洗えるんだよな……」


 モーリーの生活魔法を本気で使えば、服が破れていても、染みがあってもすぐに新品になる。


 あ、でもクレアたちには生活魔法のこと言ってないから使わないほうがいいか。


 洗濯するのは、水魔法が使える店員が交代で担当している。なぜか、クレアが率先して洗っているが、モーリーはその理由を考えないようにしていた……。


 いつものように服をベッドの上にまとめる。


 最初は抵抗があったが、いまでは下着を洗われることになっても気にはならなくなった。


 姿見でおかしなところがないか確認して、手ぐしで髪を整えて部屋を出る。


 リビングに向かっている途中、あれ? と首を曲げる。


 いつもならこの時間になれば、朝食のいい匂いが漂ってくるし、店のほうからは開店準備をする音が聞こえてくるはずなのに……。


 なにかあったのかな。


 生活魔法のひとつ、『防犯』を使う。これは、気配を察知する、自身の気配を消すなど、気配に関する様々なことができる。


 店に集まってるな。父さんと母さん、あ、シェルもいるな。


 店に行ってみると、三人は不安そうな顔で棚を見ていた。


 棚には商品がなかった。いや、あることにはあるが、どれも数個程度。昨日、セルゲたちに壊されずに残ったものだろう。


 あれ? どんなに商品が売れても、この時間になれば補充できていたはずだけど……。


「みんなどうしたの?」


「モーリー、起きたのね」


 フェリスがやってきて、モーリーを軽く抱きしめ、すぐに離れる。


「ご飯食べる」


「いやいい。それより、なにが?」


「坊ちゃん、じつは困ったことが――」


 シャルが話しだそうとしたとき、店の扉が勢いよく開く。


「ダメです! どこも商品を渡してくれません!」


 飛び込んできたのはクレアだった。彼女はいまにも泣き出しそうな表情をしていた。


「チャーリー、やっぱり……」


「たぶん、フェリスの考えている通りだろうな」


 チャーリーは曇った表情を変えることなく、ため息を吐く。すでにそうなることがわかっていたみたいに……。


「商品がない?」


 クレアの言葉を聞いたモーリーが呟く。


 店なのに商品がない。それでは店を開店できるはずもなく……。しかもこんな急に仕入れ先から断られるなんて……絶対におかしい。


「ああ、せっかく僕が説明しようと思ってたのに」


 みんながクレアの言葉を聞いて大なり小なりショックを受けている中、シェルはまったく別のことで落ち込んでいる。


 そんなシェルの言葉に反応する人はいなかった。

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