第10話 月 日 (ゆうたくんのトイレ)
今日は現場であった。三鷹の某研究所である。朝から無情な酷暑の威力に圧倒されひたすら汗は流れる。兎に角、風が暑くぬるい。蝉は誰に向けて叫ぶのか。
僕はスケジュールに「某研究所 → 直帰」と書いている。
「直帰」とは、仕事の外出先から直接自宅に帰ることを指す。会社に戻らず自宅に帰る場合に使われる言葉である。
即ち、「直帰」とは己の匙加減。胸三寸で咎められることはなく果てしない恣意である。お仕事終わればコーヒー飲んで帰れるのだ。
今日は「直帰」であった。仕事が終わり駅に向かう。
駅の近辺の公衆トイレ。
お母さんであろう女性が男子トイレの入り口に立っている。
僕は男子トイレに入る。
息子くんが上手にトイレ出来るか心配でお母さんが入り口のところで待っている。
するとお母さんが心配な気持ちが高まって振り切った。
「ゆうた、うまくできてる〜〜??」と思わず入り口から叫ぶ。
そしたら個室の中から小さい男の子の声で「ママ〜〜!」と、お母さんを呼ぶ息子。
「ゆうた、大丈夫〜〜??」と、いてもたってもいられないお母さん。
「ママ〜〜来て〜〜!」
「ママ、これない!」
「なんで〜?来て〜〜!」
男子トイレなのでママが入れないという社会の慣例をゆうた君はまだ理解できていない。
ゆうた君はどうなっているのか?ママは不安そうな顔。
僕は自らの物件を済ませてお手洗いをあとにする。
「ママ〜〜来て〜〜!」
ゆうたくんの声が三鷹のトイレにこだまするのであった。
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