本当の朝を知ってるか

@LunarCipher9

第1話 灰色

「それ何見てんの?」


研究室で動画を見ていると、同期が話しかけてきた。


「何でもない…、未解決事件の解説だよ」


イヤホンしていたから、話しかけられたのにしばらく気づかなかった。


何で、ぼくに話しかけてくるんだろう。


「普段はどんなのを見てるの?」


そんなことを同期が聞いてくる。なぜ、聞いてくるのだろう。本当にそんなことに興味があるのかな。


「うーん、普段ならこういう...オカルトとか事件とかの解説かな」


どうにか当たり障りのない言葉を見つけては、出力する。


「ふーん」


良かった。引っかからなかった。変なことを言って、また変人扱いされるのも嫌だ。対等な関係でありたいのに、そんなことになっては困る。


普通のやりとりをするのにも、こんなに気を遣う。もっと安心して、ゆっくり話せたら良いのに。自分が誰で、どんな人間かなんて、気にすることなくしゃべれたら良いのに。


「高須くんってさ、普段家でどんなことしてんの?」


また同期が質問する。ぼくに興味があるのかないのか、あったとしてどんなことを聞きたいのか。それがぼくにはわからない。


なんて言おうか、少し考えてから発言する。


「作曲かな。DTMって知ってる?パソコンで1人で音楽を作れるんだけど、そういうの。ほら、去年までバンド組んでたからさ。そういうの、自分でもやりたいなと思って」


しまった、しゃべりすぎたかな。そう思って、同期の顔を見ると、同期は特に気にしていないようで、


「へ~、作曲できるんだ。すごいね」


と言ってきた。


それを聞いたぼくは、なぜか自分が高く評価されそうになっていると思って、慌てて訂正する。


「そんな大したものじゃないよ。人様に聞かせられるようなものじゃない」


「ふーん」


興味なさげな様子で、同期は席を立った。このあと、実験するらしい。


自分のことを聞かれても、大したことは言えない。面白いことは何もない。だから、毎回迷ってしまう。何と答えるべきなのか。どう言えば、面白くなるのか。


そのたびに思い知らされる。自分は、大学生活で何もしてこなかった。ただ、単位を取っただけだ。それ以上の事は何もしていない。


バンドだって、本気で取り組んだわけじゃない。リーダーが作った曲にありがちなフレーズを付けて、リーダーから文句が出れば修正する。自分の意見なんて、一度も述べたことがない。結局、ぼくが忙しくてライブに出られないことを理由に、サークルごとやめた。


今も部屋の隅で、ギターは眠り続けている。やめてから一度もギターに触っていない。もともと、基礎練習もサボりがちだったし、大した技量もなかった。やめたことも後悔はない。


一つだけ心残りがある。自分が作った曲を演奏できなかったことだ。チャンスがないわけではなかった。きっと、積極的にメンバーやリーダーに打診していれば、一回ぐらいは自作の曲をライブで披露できたのかもしれない。


でも、それはできなかった。もう終わったんだ。


DTMをしているのは事実だ。でも、それだって本気で取り組んでいるわけではない。


満足のいく曲が作れないのだ。

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