高田馬場≪たかだのばば≫でハーレム生活

第44話 一場春夢≪いちじょうしゅんむ≫

　もし試験に受かったら、淳史と別れ、ハーレムからも巣立つんだ。私はそう心に決めた。

「どっちが受かっても恨みっこなしだよ」

「もちろん」

　役員会議室の前で、もう一人の候補者である一個下の彼とハイタッチをして、私は面接に臨んだ。

　面接官は役員が二人と人事部長、初めて会う雲の上の人だけど面接は順調、私は面接官の面々のことばの端々から、手ごたえを感じていた。

「最後にひとつだけ。答えにくかったらノーコメントでも構わないよ」

　そう前置きして、人事部長が案の定の質問をしてきた。

「金子さん、将来を約束した彼とかいるのかな。我々世代のおじさんはそういうことが気になるものでね」

「付き合っている人なんていません」

　笑みを浮かべてそう即答するつもりだった。

　そう口を開こうとした瞬間、どんっと、私の周りの重力が急に増した。

　身体も口も動かない。女の官能をつかさどる身体の部分が、「嘘をつくな」と私が答えるのを邪魔してる、そんな感じだった。

　何か言わなきゃと思ったけど、気ばかり焦って、とうとう私はことばを発することなく、面接はそのまま終了となった。

　あの面接ではどうせダメだったろうけど、自分の本音が分かってしまった以上はもう無理と、私は留学生試験を辞退した。

　一か月後、一個下の彼があわただしくロサンゼルスに向かうのを、空港で見送った。

「私の分まで頑張ってきてね」　

　彼がゲートに消えた後、デッキで離陸する飛行機を眺めていると、突然、淳史に声をかけられた。

　どうしてこの人は、そばにいてほしいと思うときに、絶妙のタイミングで現れるのだろう。

「行っちゃったわ」

「合格した同僚、仲が良かったの？」

「ううん、そうでもない。行っちゃったのはね、私の夢と希望」

「後悔してる？」

「私が後悔しないようにしてよ、淳史」

「今日はこれから暇？」

「何も考えてない。ねえ、何もかも忘れられるくらい面白いこと、私にしてよ」

「そうだな。まずスカイライナーに乗って、上野で降りて、アメ横のアダルトショップでエロい下着を買おう」

「どんな下着？」

「股のところに穴が開いてて、穿いたままできるのとか」

「それって、当然淳史のアフターサービス付きだよね」

「そのまま鶯谷か湯島のラブホに直行して、写真とか、動画を撮るってのは？」

「いいけど、SNSとかに上げないでよね」

「うん、上げる時はちゃんと顔が映ってないのを選ぶよ」

「その後は、たっぷりかわいがってくれるんだよね」

「真優がもう無理、やめてって言うまで、時間無制限一本勝負でどう？」

「よーし、乗った。それ行ってみよう！」

　右手を突き上げた私を、彼がきつく抱きしめてきた。

「本当は、ずっと、行くなって、言いたかったんだ」

　もう、なんでこの男は、女性が弱っているときに、ピンポイントで心を蕩かすようなことが言えるんだろう。

「淳史、大好き！」

　 私たちは、人目もはばからず、長い、長いキスをした。