第34話 万物流転≪ばんぶつるてん≫

 俺、二子神淳史がこの地にシェアハウスを構えてから丸二年の歳月が流れた。


 俺は大学卒業後「ビジョンクエスト」という大手と中堅の中間くらいのコンサル会社に入社して4年目となった。一年遅れて入社してきた幼馴染の山上美和が今年の人事異動で同じ部署となり、一緒に大手家具チェーンの「笹塚家具」を担当している。

 笹塚家具は当社の最大顧客であり、今や俺たちの所属する営業一課は、同社の経営企画部門的な位置づけになっている。


 笹塚家具の笹塚由美子社長には公私ともども大変お世話になっており、加えて一人娘の笹塚かのんちゃんは俺たちのハウスのオーナー兼管理人である。

 彼女には、俺は「婿さん」、美和は「ねえさま」と慕われている。


 そのかのんちゃん、小学校の運動会のリレーにアンカーとして登場すると、他のチームをごぼう抜きして優勝する活躍を大活躍をみせた。さらに学校代表で出場した区の競技会の100mの部でも優勝、その画像がSNSで拡散され、一躍天才美少女ランナーとして注目される存在となった。

 

 身長も伸びて、中学校に入学する頃には、すっかりスレンダーな大人の身体つきになった。

 陸上競技の名門校からスカウトが来たが、結局従来通っていた小中高一貫の私立の中等部に進学した。陸上部にも乞われて入部し、活躍中である。



 遥さんは男児を出産した、もちろん俺の子だ。

 遥さんが遊人≪ゆうと≫と名付けた。「遊ぶ人なんて淳史くんっぽいでしょ」と彼女は笑った。

 

  遥さんは、入籍しないという選択をした。認知も不要、シングルマザーとしてこの子を育てるという。

 

 年齢のこともあるし、結婚という形式にこだわりたくないとのことだったが、俺を取り巻く現状に配慮した結論であることは明らかだ。

 二人が結婚すると思い込んでいる俺と美和の両親に対する配慮、どこまで本気かわからないが、俺を婿さんと呼ぶ笹塚かのんに対する配慮。

 俺自身は遥さんの決断に忸怩≪じくじ≫たる思いがあったが、彼女の決意は固かった。


 美和をはじめ、真優、ひなたとは散々話し合った結果の結論のようで、ハウスの子として皆で面倒を見るという。知らぬは父親の自分ばかりのようだ。

 

 現在は産休中だが、心療内科医としてのキャリアを諦めるつもりもないようで、時が来たらひなたの保育園に子供を預けて復職予定だ。


 ひなたは22歳になった。

 勤めている保育園で直属の上長だった浦田郁美先輩が理事長の御曹司と結婚し、保育園の園長を任された。郁美新園長の下、クラス担任という責任ある立場になって頑張っている。

 それに、お付き合いをしている男性もできたみたいだ。


 万物流転、同じような日々が繰り返されているようで、それでいてシェアハウスを取り巻く環境は少しずつ変わっていく。

 ハウスのメンバーも、ここにいたいならずっといればいいし、他の人生を見つけて去っていく分には無理に引き留めることもない。嫁に出すつもりで送り出すつもりだ。

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