第30話 呉越同舟≪ごえつどうしゅう≫

「特別に、一緒に淳史の部屋に泊まらせてあげるわ」


 ここはかのんちゃんの申し出にありがたく従うことにした。


「かのん、こういうの、初めて!」

 かのんちゃんを真ん中に、三人で淳ちゃんのベッドに入る。さすがに狭いけど、彼女はとても嬉しそうだ。


「私、父親の記憶はないし、兄妹もいないし、マミーは仕事で忙しいし、そりゃ家にはお手伝いさんがいるし、学校の友達もたくさんいるけど、夜はいつも一人で寂しかった」


「俺がかのんちゃんの弟か妹を作ってあげようか」と敦ちゃん。

 本当にやりそうで怖いわ。


「駄目よ。淳史はね、私と子供を作るの」

 やはり油断ならないガキだ。


「私はね、子供たちが寂しい思いをしないように、にぎやかな家族を作りたいの。淳史、協力してよね」


「それまでは、俺たちみんなが、かのんちゃんの家族の代わりをしてあげるよ」と敦ちゃん。


「ホント? かのんは、昔からお姉さまが欲しかったのよ」

 

 かのんちゃんは私に方に寝返りを打ち、息がかかるくらいの距離まで顔を近づけてきた。


「ねえ、美和さん、あなたのこと、ねえさまって呼んでいい?」

「うん、もちろんよ」


 かのんちゃんが私の腕をつかんで肩に顔を埋めてくる。

「美和ねえさまっ!」

 なに、この子、やっぱりかわいいじゃない。


 翌朝、私たちはかのんちゃんと一緒に朝食を取った。私の隣で、にぎやかに話しながらトーストを頬張るかのんちゃん。


 この後は、お迎えの車に乗り込もうとする彼女を、「また来てね」と皆でもみくちゃにして送り出して、それで一見落着、そう思っていた。


 ところが、朝食が終わると、かのんちゃんは、打って変わった凛とした態度でこう言い放った。

「あなたたちの生活を見せてもらったけど、その乱脈ぶりにはあきれるばかりだったわ」


 そしてこの爆弾発言だ。

「今後は私がオーナー兼管理人としてここに住みこみ、あなたたちを監督することにします」


「でも、かのんちゃん、部屋はどうする? このハウス、個室が5部屋しかないけど」と敦ちゃん。

 

 元社員寮だったこの建物は、1階はリビング、キッチン、トイレ、浴室、2階に寝室が5部屋という間取りになっている。


「はぁ? 何が悲しくて私とあろうものがこんなぼろ家に住まなきゃならないのよ」


 数日後、ハウスに隣接したマンションにかのんちゃんが引っ越してきた。

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