第24話 凍解氷釈≪とうかいひょうしゃく≫

 遥≪はるか≫さんが避妊をしていないと知ったあの日、私は、寝物語に敦ちゃんにおねだりをした。


「遥さんとの時はゴムつけてないんだよね。それってやっぱり気持ちいいのかな」


「んー、俺は別にどっちでも。女性の方のことは遥さんに聞いて」


「そんなこと私からは聞けないよ。ねえ、私、今日は絶対確実な安全日なの。一度だけ、いいでしょ」


 敦ちゃんは、最初は躊躇していたものの、結局私の懇願に負けた。



「敦ちゃんに嘘をついて、そのまましてもらったの。そしたら予定日になっても生理が来なくて。一回だけだったのに、まさかこんなことになるなんて」


 状況がはっきりするまで、淳史にも伏せておいたほうがいいだろう。私は、ひなちゃんとだけ情報を共有した。


「もしも本当に妊娠だったら、淳史先生、どうするかな」とひなちゃん。

「淳史だったら、子供を産ませて、美和ちんと結婚もするって言うんじゃないかな。あいつはそういうやつだよ」


「そうなったら、遥さんはどうするかな」

「彼女だったら、黙って出ていくんじゃないかな」


「そしたら美和ちゃんはどうするかな」

「そのまま淳史と結婚ってことにはならないだろうね。でも、彼女に淳史の子は堕胎≪おろ≫せない。ここを出て、一人で子供を育てようとするんじゃないかな。美和ちんはそういう子だよ」


「それじゃ、誰も幸せにならないじゃない。私、いやだよ、そんなの」

 ひなたは泣き出してしまった。


 翌日、美和ちんが泣きながら私の部屋に来た。

「来たの。出来てなかった」

 

 その日、遥さんは帰宅しなかった。部屋を訪ねると、彼女の服がごっそりなくなっていた。私たちは、うかつにも、このシェアハウスの壁が薄さを忘れていた。



 結局、遥さんは、一日外泊しただけで翌日には何食わぬ顔で戻ってきていた。

 そして今、淳史との愛の営みの真っ最中である。

 

 先のことは分からない。遥さんは、今日妊娠するかもしれないし、しないまま出産可能な年齢を過ぎてしまうかもしれない。 

 私たちは、またしても懸念に蓋をし、問題を先送りにして、リビングでワインを飲んでいた。


「それにしても、何だったんだろうねー、このバタバタと怒涛の結果オーライは」とひなちゃん。


 おそらく淳史はすべてお見通しで、遥さんを探し連絡を取ったのも彼だろう。

 エッチがうまいだけの男じゃない、惚れ直してしまいそう。


「それにしても今日の遥さん、いつにも増して激しいね」と美和ちん。


「それじゃ、乾杯しようか」と私がワイングラスを掲げる。


「何に乾杯するの?」とひなちゃん。


「遥さんの、衰えを知らない旺盛な性欲と敏感な身体に?」と美和ちん。

「私たちのこのシェアハウス生活がずっと続きますように、でしょ」


「「「乾杯!」」」

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