第4話バナナ(タイ旅行記)

 バナナぁ?どう考えても果物だろう?過剰な糖分摂取で頭がいかれちまったのか?と思ったそこの君。待て、話せばわかる。それに、二度とこんな真似はしない。あ、でも2、3年この話が続いたらやるかも......おい、その拳に握られている得物を放してくれ。怖くて説明もできない。

 君は先程過剰な糖分摂取で私の頭がいかれたといったな。半分正解だ。何?じゃあなんでいかれちまったんだって?違う違う、そうじゃ、そうじゃない。前者の方だ。少し遠出してな、南国の土を踏んだんだが、そこでどうしてもカレーを食べるような巨大スプーンいっぱいの砂糖を口に含まなければならない事情があったんだ。それを早く言えって?そんなに気になるか?......ふうん。だがしかし、その事情というのは旅の最後に起こったものだから、順を追って説明しないとな。まあ土産話でも聞くつもりでそこら辺に腰を下ろしなさい。


 茶番を失礼致しました。以下、本当に土産話です。小規模修学旅行もどきでタイに行った時の。何分書く体力がないので途切れ途切れにはなりますがご了承ください。


 4時間という短い時間だが夜中出発という少しハードなフライトだった。若干の疲労と、自分は何をしたわけでもないため出所が謎の達成感を感じながら、私はすわんなぷーむ空港とやらを出た。たちまち降り注ぐ強烈な日差し!暑いことに変わりはないが、日本とは違う、情熱的で異国情緒溢れる空気!......などは微塵もなかった。空は雨季で薄い雲が常に張り付いているし、空気はエスニックな香りは漂うものの、うーん、生ぬるい。日本のほうが余程暑い(現地最高気温30℃くらい)。


 日の出ずる母国の猛暑を実感しながら、観光バスに乗り込む。いくつか観光地を回ったが、書く体力ガ―(以下略なので、数か所は割愛させていただく。


 前述のとおり夜に出発して4時間だから、時差を入れても着いたのは早めの朝だ。観光名所どこも開いてねえよということで、まずは朝市に行った。偏った甘党、極甘を自負する私でも甘ったるいと感じるサトウキビジュースを飲みながら(余談だが私が食べ物を甘すぎると感じたことはこの16年の人生で2回目だ)、他に何も買わない癖に商品につっこみを入れていく。迷惑客すぎる。

 知らん果物売ってるけど、なにもの?めっちゃ緑だけど。うわ、気温30度近いなか鮮魚むき出しで売ってるよ、大丈夫か?卵を一個単位で売ってるだと!?結構な数ひび割れてますけど。おい、引率、路上喫煙すんなやに中が!

 最後タイ関係なかったが、こんな風に楽しんでいた。一応擁護しておくと、この引率は学校関係者でも旅行会社の人でもない。まあいろいろあんのよ、大人の事情ってやつ?黙れ。


 つっこみに熱が入ってしまったがメインはそこじゃない。次はエメラルド寺院だ。誰だエメラルド寺院て名付けたの。現地でワットプラケオと呼ばれてるならそれでいいじゃないか。コミュニケーションをわざわざ難しくしているようにしか見えない。それはいいとして、なんとなく知っていたが派手だな。屋根にも柱にも赤・青・白の宝石が所狭しとちりばめられていて、その下は金ぴか。装飾もかなり凝っていて、神とも人とも獣ともつかぬ生物がものすごい数いる。甲子園球場の応援席に並べたとしても、強豪校と遜色はない。一番地味なところでも#FFFFFFの漆喰が眩しい。やっと顔を出した太陽が常夏の空にふさわしいギラつきで目がチカチカするのは光の反射かはたまた疲れて促進された熱中症か、といった具合であった。


 バスで涼んで復活。ガイドさんによれば、今度は移動に船を使うらしい。いやあ、素晴らしかったね。ツイッターで話題になっているパリのセーヌ川と互角か、それ以上だ。青い空!赤い船!緑のチャオプラヤ川!うん、色の三原色による最高のコントラストだ!

 爽快で気分が良かったことは事実だが、皮肉屋の私がここまで褒める程、川は綺麗だった。


 (常夏だから構わないんだけども)お湯が出るまでに5分はかかるシャワーのホテルに泊まり、翌日・翌々日は修学旅行特有の社会勉強タイム。文系なのでさっぱりだったが機械をいっぱい見られて楽しかったよ。感想は以上。


 三日目の夜、夜市。といっても屋台ではなく、露店のお土産屋さんとレストランが何軒か、みたいなところ。そこで白黒・象柄・薄手のシャツを購入。晩御飯は、あまり食欲も自由時間もなかったのでロティというパンケーキを食べた。クレープのような薄い生地にバナナを包んで、さらにシロップがかけてある。その後現地の人と話す機会があったのだが、ロティ美味しかったです!と言ったら「ロティすごく甘いwwwww」と笑われてしまった。まあ確かに笑う程甘かった。例のサトウキビジュースよりも甘かった気がするが、普通に食べられた。たぶん喉に引っかかるような甘さが苦手なんだと思う。と自己分析。

 服屋の兄ちゃんもパンケーキ屋のおばさんも親切でほっこりした。観光客だからじゃね?とも思うかもしれない。だが、優柔不断な性格のため長時間うだうだしていた私を優しく待ってくれていたのにはそれ以上の何かがあると、そう反論したい。異論は認めん。だってポジティブに考えたほうが気楽でいいじゃん。


 次の日。最終日だ。午前中は社会勉強タイムの続きだったが、午後からは観光。遺跡をいくつか回った。あの、かがみながら近づいて写真を撮る光景が傍から見ると超シュールでおなじみのワットマハタートにも行った。注意しても立ち入り禁止の仏壇に上るガキがいた以外はとても満足のいく観光だった。

 そして象に乗った。象おもしろすぎる。ばかでかい。ばかでかいのが数頭、乗り場に集められている。幸運なことに私が乗ることのできたのが特に大きな個体だったのでさらにテンションが上がった。楽しっ。象楽しっ。


 さて、最終日の夜に事件は起こった。あの事件である。冒頭でちょっと触れた「砂糖丸飲み事件(仮)」。舞台は野生の虫と鳥がたまに店内に飛び込んでくる、開放感のあるレストランで起こった。運ばれてきた料理をほとんど平らげ、宴もたけなわといったところ。事件の歯車が動き出す────────

 「おい、男子のジャン負け、トムヤムクンに入ってたこのでかい唐辛子食おうぜ!」

ああ、小規模でも修学旅行。ああ、どこまでも男子。ばかばかしい。自慢じゃないが私は辛いものに人一倍弱い。こんなくだらない且つつまらないイベントで得るものは何もない。

「よっしゃあ、のった!」

だが、象に乗って最高潮に達したテンションは、私の心の中の少年を活性化させた。そしてじゃんけんは負けた。

 以上が事の顛末だ。笑うがいいさ!でもその時は楽しかったんだよ!ちなみに誰が見ても過剰摂取の砂糖は効かず、いつも不味い不味いと言いながら飲んでいた粉薬が事件解決のMVPとなった。この時ばかりは苦みに感謝した。


 そんなこんなで1日は長いが全体はあっという間のタイ旅行が終わった。

 ああ、タイトルをバナナにした理由だが、なんというかこう、特別感を出したかったのだ。これからも、いつもは野菜にしておいて、特別な回は果物にしようかな、などと考えている。我ながら謎のネーミングセンスをしている。

 さて、夜市で買ったシャツが、日本では暑すぎてまだ着られないことだけが残念だ。しかし、旅の思い出が薄れかけた秋の初めに、あの白黒なのに妙に雰囲気が鮮やかな服に袖を通すことで、また楽しい記憶が染め直されたらどんなに素敵だろうかと、それすらも楽しみである。

 




 

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