第2話馬鈴薯(ばれいしょ)

シリーズものを書くならせっかくだから題に共通点を作りたい。ない頭で数分考えたところ、二話目にして原点回帰し食卓に出た野菜の中で一番美味かったものを採用することに決めた。


馬鈴薯というのはじゃがいものことなのだが、わざわざマイナーな名前を使ったのは何も格好つけたいからだけではない。ここには田沢湖(※秋田県の日本一深い湖)のごとく深い理由が存在する。

時は約10年前にさかのぼる。私は当時ピッカピカの小学一年生だった。学校には給食室なるものが存在し、出来立てほかほかの給食が食べられた。当時はそれが当たり前だったが、本州縦断して嫁に来た母の母校では給食センターからお弁当が届けられるシステムだったらしいので、今思えば恵まれていた。

さて、給食の役割というのは何も育ちざかりの小学生の食欲を満たすばかりではない。食育という言葉が示す通り、学習面でも一役買っているのだ。その一つに、地元の食材を使った料理を食べて農家の皆さんに感謝するという取り組みがあった。そこで登場したのが「ばれいしょ」というワードである。伝統的な呼び方なのか何なのか知らないが、栄養士の先生はそうおっしゃっていた。

そして給食で出るじゃがいもは大体美味い。

この二つの記憶が結びついた結果、私の中で「馬鈴薯=美味いじゃがいも」という概念が爆誕エアロブラストした。つまり今日のじゃがいも料理は最高に、とびっきり美味であったということだ。正式名称は分からないがじゃがいもを甘辛く炒めたやつだった。好き好き大好き。


先程「深い」ものの例えとして田沢湖を挙げたが、皆さんはどこかでこの名前を見たことがあるのではないだろうか。年齢が近い人は覚えがあるかもしれない。そう、「ニジマスの謎を追え」みたいなタイトルの、国語の教科書に載っていたあれだ。そしてこれは伏線である。今から国語の話をするための。

全話の自己紹介で書いたが私は文系なので、文学国語という課目をとっている。呼び名に馴染みのない方もいらっしゃるかもしれないが、まあ近現代の詩とか小説とかを読み解くものである。現在は中島敦の山月記を読み始めたところだ。

しかしまあこれがおもしろい。今まで作者のイメージといえば、ワイシャツとサスペンダーを身につけておしりのところからちょろんと虎のしっぽが出ている、銀髪優男やさおとこぐらいなものだった。だが、リズム感のある節回しと登場人物の性質の描写を名教師の解説のもと読むと、すぐにそれの虜になった。李徴の臆病な自尊心と尊大な羞恥心と自嘲癖とに共感し、「これ俺やん......」と思った。私も承認欲求がより肥大化したらそのうち虎になるかもしれない。でも何も考えない虎になれるならそれはそれでありだな。人間の私より幾分かは中国の生態系において重要な役目を果たしてくれるだろう。


まあ自嘲癖はこれぐらいにして、窓の外のたっぷりと満ちた白い月でも眺めながら休むとしよう。



あ、pixivで見つけた袁傪×李徴の薔薇が咲く小説がとても面白かったことだけ追記しておきたい。

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赤茄子草子 鳩原 @hi-jack

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