第1話

 あ〜、ねみぃ…。


 暖かな春の陽気は眠気を誘う。

 俺は、何度目か分からないあくびをする。


 「うぅ〜ん、最近、受験勉強漬けだったから疲れてるのかもしれないな」


 早く家に帰って寝よう。


 俺は平凡高校生になったばかりの神島蒼介かしまそうすけ。顔が良いだけの、ザ・平凡だ。それなのに、周りはかっこいいだとか、イケメンだとか騒ぐ。


 うるせぇな、俺は平凡でいたいんだよ。


 ていうか、なんか今日はやけに疲れてないか?最近の勉強の疲れもあると思うが…。


 やっぱり無駄なことを考えてないで、さっさと帰ろう。


 それに、なんかイヤな予感がするしな。


 滅多めったに人の通らない裏通りを走る。


 しかし、こういう時のイヤな予感は大抵当たるものだ。


 突然、激しいめまいにおそわれる。立ちくらみがして、立っていられなくなったとき。


 地面が、消えた感覚がした。地面の上に立っていない。それが分かる。


 落ちていく感覚がする。それに抵抗しようとして、できなかった。


 体が、動かないのだ。指一本すら動かせない。


 激しいめまいが収まらない。むしろ、落ちてから更に悪くなった気がする。


 「あぁ…、俺、死ぬのかな」


 死ぬのならせめて、高校生活を謳歌おうかしてからにしてほしかったな。いろんな経験をしたかったのに…。


 迫りくる死にそなえ、まぶたをおろそうとしたとき。


 あんなに激しかっためまいが収まり、大きな浮遊感に覆われた。


 そのことに疑問を感じながらも、意識は薄れていく。


 声が聞こえたような気がしたが、もう意識は消えかかっていて、その声を認識することもない。


 ただ、なんだか、とても懐かしいような気がした。

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