第23話 卵とお肉♪
「あうぅー、恥ずかしい……。口から火が出る……」
「そりゃあ、辛いものを食べた時だろう」
照れ隠しを兼ねたボクのボケにバックスさんが突っ込む。
うぅ、今はそんな律義さはいらないよう。
「まあ、そんなに落ち込むな。おっかさんに回復薬を使ったことを知らなかったんだから、勘違いしても無理はない」
「こけー……」
ごめんね、というように首を傾げるママ。ちょっと可愛い。
だけどバックスさんは微妙な顔をしている。二メートルの巨体だから仕方ない、かな?
きっと普通の鶏サイズなら誰でも可愛いと思えたはず。
「とりあえず、卵がある場所に案内してもらわないか」
というバックスさんの意見を受けて、ママと一緒に無精卵が置かれている場所に向かう。
「こけっこ」
窪地になっていたそこには大小様々な大量の卵が転がって、積み重なっていた。
「魔獣の森中のコッカトリスがここに産卵に来ているみたいだな」
あれを見ろと指差された先にいたのは、体長八十センチほど――これくらいが一般的なサイズ――のコッカトリスで、ボクたちを気にすることなくぷりんと卵を産むとすっきりした顔で去っていった。
「ふご?」
「んご?」
今度はイーノとニーノが何か見つけたようだ。
そちらに視線を向けると、狼系の魔物が大きめの卵を割って子どもたちに食べさせていた。
「古都からの位置の割に、魔獣の森の魔物が強い訳だ。無精卵とはいえ、コッカトリスの卵を食べているんだからな……」
この魔獣の森は古都ナウキから歩いて二日くらいの場所にあるのだけれど、今回は『ラーメン再現プロジェクト』――どんどん大袈裟になってる……――の一環として馬車を借りてきたので、一日足らずでやって来ている。
まあ、そんな場所でもボクにとっては初めての遠出だったんだけどね。
「古都から馬をとばして一日圏内というのは初心者向けで、それほど強いモンスターが出ないように設定されている。その中の例外の一つがこの魔獣の森だったんだが、こんな裏設定があったとはな」
感心したようにバックスさんが頷いている。理由もなくただ単に強い魔物が湧く、じゃ興醒めしちゃうから、プレイヤー視点からするとぐっじょぶな設定だと思う。
おっと、それはさておき卵を分けてもらおうっと。
そう思って卵の山に近づいて固まる。
「どれが新鮮な卵なんだろう?」
例の卵が腐ったような匂いを始め、一切腐敗臭がしていないからどれをとっても大丈夫なのかしらん?
「アイテム的にはどれでも問題ないようだぞ」
「分かるんですか?」
「ああ。鑑定技能を持っているからな」
いいなあ、鑑定。便利そうだし取得しようかな?いろんな大きさの卵をアイテムボックスに放り込みながら、ボクはそんなことを考えていた。
ちなみに、腐ったりしないのにこの場所から卵が溢れ返ったりしないのは、ボクたちが魔物を倒した時と同じで一定時間で消えていくからみたい。
二人して卵を集め終えた時、ふと何か忘れているような気がしてボクは首をかしげた。
その動きが気に入ったのか、テイムモンスターたちも皆同じように首をかしげている。
か、かわいい!……じゃなくて!
えっと、アイテムボックスに関係していたような……?
「あ!デカファングのドロップアイテムを分けないと!」
隠しイベントだったせいか、アイテムが出現せずに、直接アイテムボックスに送られたからすっかり忘れていた。確か『超巨大』って付いていたからレアっぽい気もする。
「こけ」
「いらないの?お肉とかもあるよ」
首を横に振るママにアイテムボックスからお肉セットを取り出して見せ、ようと、し、て、
「で、でかい、重い……!?」
慌てて手伝ってくれたバックスさんと一緒にドスンと地面に置く。
その時体が小さいテイムモンスターたちが揃って反動で小さく跳ねていた。
「なんだこりゃ?『超巨大デスファングのお肉詰め合わせセット』!?」
出てきたのは色々な部位のお肉が入っているボクよりも大きな袋――いわゆるビニール袋みたいな透明なやつ――で、『この袋は中のお肉に付随したものです。開封して十分経つと消滅しますのでご注意ください』と書かれていた。
あくまでもアイテムは『お肉』らしい。
「ちょっと待って!ボクのアイテムボックスの中にそれと同じ物がまだ四十九個も入ってる!?」
つまり『お肉セット』は全部で五十個もあったってこと!?
確かにデカファングはそれくらいの体積があったけど……。
慌てて他のアイテムも確認すると、『牙』は二本、『毛皮』は一枚だけだった。
「だけどどっちも大き過ぎ!」
牙はボクどころかバックスさんよりも大きく、ママの背くらいある。
毛皮の方も折りたたまれていたのを広げていくと、小さなサッカー場くらいになってしまった。触り心地が良いのか、テイムモンスターたちがその上で転げ回っている。
「どうしましょうか、これ……」
「どうしましょうって、どうする?それぞれ一財産以上の価値があるぞ」
きゃっほー!大金持ちー!!……と簡単に思えたらどんなに気楽だろう。
でも、こんなのを売りに出したりしたら、プレイヤーもNPCも関係なく大騒ぎになってしまう。下手をすると、魔獣の森の生き物が狩り尽くされてしまうかもしれない。
「リュカリュカの
無精卵の産卵所も同じだ。魔獣の森の根幹にかかわることだから、隠しイベントで特別に入ることができた場所かもしれないけれど、秘密にするべきだと思う。
バックスさんとボクとママで話し合った結果、毛皮はそれぞれが必要な分だけ切り取って持ち返ることになった。
残りはママや他のコッカトリス達の巣の敷物にでも使ってもらえばいい。
牙も細工師とかなら象牙的な感じで使い道があったのだろうけれど、ボクたちではどうしようもない。
よって、これもママの巣の近くに置いてもらうことになった。
こんな大きな牙を持っていたデスファングをやっつけたんだぞ的な威嚇の意味もあるので、無駄にはならない、はず……だと思う。
「さて、問題は肉か……」
「肉ですね……」
「こけ……」
とりあえず取り出した『お肉セット』を開封して小分けにできないか試してみると、アイテム名が『デスファングのお肉詰め合わせ』へと変化していた。
これはちょっとしたレアアイテムとして以前から知られていたものなので持ち返っても大丈夫そうだ。バックスさんに鑑定で見てもらって『超巨大』とかバレると危険な単語がないことも確認済み。
「さすがは『超巨大』。あれ一つで通常の三十個分にもなるとは……」
疲れ果てた顔でバックスさんが言う。
お肉が入っているビニール袋が十分間で消えてしまうので、出して、切って、分けて、入れてを時間に追われるように繰り返していたからだ。
きっとボクやママも同じような顔をしていると思う。
ちなみに小分けにするための袋はバックスさんがアイテムボックスの空きに入るだけ突っ込んでいた水袋を、中身を出して使わせてもらった。
野宿する時などに重宝するそうで、ベテランプレイヤーたちのちょっとしたテクニックなんだって。
「残り四十九個か……。リュカリュカ、アイテムボックスの圧迫具合はどうだ?」
「『重ね置き』できているのが救いですけど、元々かなりの大きさがあるので、ほとんど空きがない状態です」
アイテムボックスにはそれぞれのアイテムごとに決められた個数までを一種類の物として収納することができる。
ゲーマーならお馴染みの回復薬九十九個、というアレだね。
補足すると、アイテムボックスの容量はレベルが上がるごとに少しずつ増えていく。
他に特定のクエストをクリアしたり、リアルマネーを課金したりすることでもある程度増やすことができるようになっている。
「それじゃあそのまま肉を持っていてくれ、と言うのは嫌がらせになるな」
うん。それはまぢで勘弁してほしい。
「その肉、オレたちに買い取らせてもらえないか」
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