第22話 新しいテイムモンスター
さて、他の魔物が特殊技能を使えるのか気になるところではあるけれど、今はそれよりも重要なことがあるよね。
「ママ、巣の方は大丈夫なの?」
尋ねると、ママはそうだったと言うように急いで巣のある木へと向かう。ボクたちのその後に付いていくと、
「こけ」
ママから巣の近くにおいでと言われた。せっかくなのでお邪魔させてもらおうかな。
でも木登りをするなんて何年振りだろう。上手く登れるか心配……。だったけれど、レベルが上がって筋力も増えているせいか案外簡単に登れることができた。
「リュカリュカ、受け止めてくれ」
「わぷっ?」
呼ばれて下を見ると、ラグビーボール、もといイーノが飛んできた。
驚きながらも無事にキャッチ。
続いて飛んできたニーノも受け止めると、残ったバックスさんはあっという間に登って来てしまった。
「もう!投げるなら、そう言って下さい!」
ぷりぷりと文句を言うと、バックスさんは「すまんすまん」と謝ってくる。投げられた二匹が楽しんでいたということもあって、この点についてはこれで終わり。
揃って巣の中を覗き込むと、三十センチほどの大きさの卵が数個並んでいた。
そしてそのうち一つは、なんと今にも孵りそうに微かに動いている。
「あの子もうすぐ孵るの!?」
「こー」
そうだと頷くママ。おおう!これはらっきーだ!
「す、すくしょ、スクショ!」
「リュカリュカ落ち着け。どうせなら動画撮影の方が良い」
確かにそうだ。急いでメニュー画面を開くと、ボクの視点で動画モードをオンにする。
ちなみに『アイなき世界』ではスクリーンショットはプレイヤーの視点だけしかないけれど、動画にはもう一つ、後方上空からの俯瞰(ふかん)というタイプもあったりする。
「お!殻にひびが入り始めたぞ」
ピシピシと音を立ててひびが広がっていく。そして、
「ぴぃー!」
「しゃー!」
すぽーんという効果音が付きそうな勢いで殻からヒヨコとチビ蛇が飛び出してきた!
「ええええええ!?」
「なんだとおお!?」
「ふごごごごご!?」
「ぷききーーー!?」
「こ、こけーー!?」
「ぴいーーーー!?」
「しゃーーーー!?」
ボクとバックスさんの驚きの声にびっくりしたのか、イーノとニーノとママ、更には生まれたばかりのヒヨコとチビ蛇までが一斉に大声を上げた。
「し、しっぽ!とれ、とれてるーー!?」
なんと本来尻尾部分がくっついているはずの一羽と一匹がバラバラで生まれてきたのだ!
「どういうことだ!?」
「そんなこと、わかんないですよう!……はっ!何か悪い病気!?……って、え?ママなに?」
混乱するプレイヤー二人に、ママが何を驚いているの?という顔を向けてきた。
「もしかして、これが普通なのか?」
「うそっ!?え?ママ、そうなの?」
「こけこけ」
コクコクと頷く。
そして証拠を見せるように、ヒヨコたちが一瞬光輝いたかと思うと、尻尾部分で繋がったコッカトリスらしい――ヒヨコだけど――姿になっていた。
「おおー!」
と歓声が上がると、雛はエッヘンと自慢げに胸を張っていた。
かわいい!
そして再び光に包まれると一羽と一匹に戻っていた。
「融合と分離、ということか……」
想定外の凄い映像が撮れた気がする。でもこれで少しはテイマーの人気も上がるんじゃないかな。
「ぴよー……」
「しゅー……」
融合分離をしたことで疲れたのか、ヒヨコたちがか細い声で鳴いている。
「お腹が空いているのかな?」
ポケットに入れてあったおやつ――一口パンケーキ――を取り出してあげてみると、貪るように食べ始めた。
かわいいなあ。
和んでいると、自分たちにも寄こせとイーノとニーノが鼻先でつついてきたので、仕方なく二匹にもあげる。
あう、ボクのおやつ……。
「ぴっ!」
「しゅ!」
落ち込んでいるボクを励ますようにヒヨコたちがすり寄ってくる。
「その二匹、テイムできるんじゃないか?」
慌てて確認してみると、バックスさんの指摘通りにヒヨコとチビ蛇はテイム可能と表示されていた。
「きみたち……。ママもいいの?」
見回すと皆頷いている。それに応えるように、ボクはテイム技能を使って正式に一匹――それとも二匹?一羽と一匹??――を仲間にしたのだった。
「これからよろしくね」
ヒヨコは羽と、チビ蛇は尻尾と握手する。
イーノたちも新しい仲間が増えて嬉しそうにしていた。
それじゃあこの子たちに名前を付けてあげないとね。
「ヒヨコの君がワトで、蛇の君がビィ。どうかな?」
「ぴぴっ!」
「しゅっ!」
良かった。気にいったみたい。
「それじゃあ本題に入るか。リュカリュカ、おっかさんに卵を分けて貰えないか聞いてみてくれ」
パンと手を叩いて、バックスさんが言う。
いくらボクたちの目的が卵だからって、それはちょっとデリカシーに欠け過ぎじゃないですか!?
「この子たちを貰ったばかりなのにそんなこと聞けませんよ!」
「別に雛に孵る卵を寄こせと言っている訳じゃない。無精卵でも良いんだよ」
あ、その手があった。コッカトリスの外見は鶏に近いから、無精卵を産んでいるかもしれない。
そのことをママに尋ねてみると、仮説は的中、呆気なく許可を貰え、しかも無精卵を産み落としている場所へと案内してもらえることになった。
「こけ」と鳴いてママが地面へと降り立ったとき、それは起きた。
「グゴオオオオオオ!!!!」
重低音が響き渡ったかと思うと、倒したはずのデカファングが起き上ってきたのだ!
「しまった!倒しきれていなかったのか!」
ママが止めを刺した――と思っていた――ので、はぎ取りナイフでアイテム化させていなかったのが裏目に出てしまった形だ。
かなりへばってはいるみたいだけれど、デカファングの目は怒りに燃えていた。
「こけけここけけ!」
突然巣から離れるように駆け出すママ。
「囮になるつもりか!?」
そんな!?ママがいなくなったらこれから生まれる雛たちが生きていけないよ!
「ママ逃げて!」
だけど、ボクの声はデカファングの突進する音にかき消されてしまった。
軽い衝突音が聞こえたかと思うと、ママは空高く跳ね飛ばされていた。
どさっ。
「ママ!」
地面に落ちたママに急いで走り寄る。
「こけー……」
か細い声で鳴くママ。その瞬間目の前が真っ赤に染まった気がした。
「……許さない!絶対に許さないんだから!」
既にデカファングはこちらに向き直っていた。
だけど今度は怖くない、怖がってなんていられない!
ママを庇うようにして立ち、アイテムバッグからワンドを取り出す。
デカファングを睨みつけながら精神を集中していく。目に見える勢いでMPがどんどん減っていく。
MPが尽きかけた時、ある特殊なスキルが使用可能になったことが視界の端に表示された。
危機感を覚えたのかデカファングが慌てて突進を始める。
でも遅い。
今度はこっちの番なんだから!
「『
「ぶもおおおおお!!!!!!」
スキル名を叫ぶと同時にどこからともなく咆哮が聞こえてくる。後方から来た巨大な何かがボクの脇を通り過ぎたかと思うと、デカファングめがけて真っ直ぐ突っ込んでいく!
どげし!
十メートルを超える強大な生物同士が正面からぶつかり合う。
力比べに勝ったのはボクが呼んだワイルドボア、つまりイーノとニーノのお母さんだった。
押され始めたデカファングは足をもつらせて転倒し、お母さんにげしげしと踏みつけられて、今度こそ息絶えてしまった。
「ぶも」
そしてお母さんは、いい笑顔を残して消えていく。
古都に戻ったらお礼も兼ねて会いに行こう。たまには二匹が元気でいる姿を見せてあげないとね。
倒しきっているはずだけど用心の意味も込めて、デカファングにはぎ取りナイフを突き立てる。
〈『超巨大デスファングのお肉詰め合わせセット』を手に入れました。
『超巨大デスファングの牙』を手に入れました。
『超巨大デスファングの毛皮』を手に入れました〉
突っ込みどころ満載のアイテムが取れたような気がするけれど、今はそれどころじゃない。倒れているママの元に戻る。
「ママ、大丈夫?」
「こー……」
よくやったわね、というように優しい目をするママ。
「ダメ、ダメだよう。ママが死んじゃったらあの子たちはどうなるの!?」
涙が溢れて視界が滲む。ママ、いっちゃやだ!
駄々っ子を宥めるようにママの羽がボクの頭を撫でていく。ボクは声を上げて泣いていた。
やがてママの動きが止まる。
「ママーー!!」
「死んでないぞ」
縋りつくボクに、バックスさんは冷静にそう言った。
「――え?」
「俺の持っている回復薬を使った。今は疲れて眠っているだけだろう」
口元に耳を持っていくと、確かに息をしている!?
じゃあ、ボクの早とちり……?
は、恥ずかしー!!!!
◇ 補足 ◇
サモナーの場合、成長した大人の魔物しか召喚できません。
体格変化を習得させない限り、ちびっこモンスターと一緒に冒険できるのはテイマーのみ、ということになります。
『ワイルドボアアタック』ですが、正確にはリュカリュカが精神を集中してMPが減少し始めた時には使用を選択しています。
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