第21話 デカファングをやっつけろ!

「このままだとまずい。デスファングは雑食で何でも食べる。あんな大きな奴がコッカトリスの雛や卵を食べて味を覚えてしまったら、魔獣の森のコッカトリスは全滅することになるぞ!」


 な、なんだってー!それは困る!ボクたちのラーメン用煮玉子の素材がなくなっちゃう!


「か、加勢しましょう!」

「そうしたいのは山々だが、あの大きさだ。下手に介入しようとしても押しつぶされるのがオチだ」


 う……。いくら何でもプチっと潰されるのは嫌だ。

 だけどボクたちが戸惑っている間に状況は大きく変わろうとしていた。

 再び牙の一撃を受けたコッカトリスママ――多分ね――がよろめいて膝?を着いてしまう。

 そして勝利を確信したのか、超巨大デスファング略してデカファングは必死に立ち上がろうとするママの横を悠然と通り抜けて巣へと向かい始める。


「ダメ!!」


 気付いたらボクは隠れていた茂みから飛び出していた。


「切り裂いて!『風刃』!」


 防御が低そうな目に向かって風属性の初級魔法『風刃』を撃ち込む。


「グルリュオオオオ!!」


 微かなダメージにしかならなかったけれど、意識をこちらに引きつけることは成功したみたい――


「ひっ!」


 射竦められるというのはこういうことを言うんだろうか。

 邪魔をされて苛立ったデカファングがボクを見据えた瞬間、身動きをとることができなくなっていた。


 怖い怖い怖い怖い怖い!


 血の滲む目――後から冷静に思い返してみると、風刃で傷つけることができていたみたい――に巨大な牙、何もかもが恐ろしい。


 二度三度と前足で土をかく。ワイルドボアでも見たことのある動きだ。

 その後にくるのは……、突進!

 逃げないと、と頭で考えていても体が全くいうことをきかない!?


 跳ね飛ばされる!死を予感したその時、予想外の方向からボクは弾き飛ばされていた。


「あぐっ!」


 受け身も取れずに強かに体を地面に打ち付けてしまう。


「バカ野郎!もう少しで死に戻るところだぞ!」

「ごっごっ!」

「ふー!」


 続けてバックスさんの怒鳴り声と、イーノとニーノの非難じみた鳴き声が聞こえてくる。

 どうやら僕は皆のお陰で間一髪助かったみたい。


「ご、ごめんなさい……」


 だけど、ボクは自分だけでなく、パーティーの皆も危険に曝してしまった。謝って済む問題じゃないかもしれないけれど、でも、けじめとしてきちんと謝らなきゃ。


「だが、そういうバカは嫌いじゃない」


 ボクの頭をポンポンと叩きながら、バックスさんがニカッと笑う。

 カッコイイ……。でも胸の奥がキュンとときめいたりはしないけど。


「あ、あいつはどこに?」

「向こうだ」


 バックスさんが指差した先には、なぎ倒した木々に半ば埋もれているデカファングがいた。


「俺とチビたちであいつをかく乱して時間を稼ぐ。リュカリュカは何とかしてあのでかいコッカトリスを説得して味方に引き入れてくれ。頼んだぞ!」


 そう言うと、返事も聞かずに駆け出す一人と二匹。


 え?

 ちょっとー!いくら僕たちだけじゃ勝てないからって、それは無茶振りじゃない!?

 だけど時既に遅く、皆はデカファングの周りに広がって挑発を始めている。


 もう!どうなっても知らないからね!


 ボクは怪我で上手く起き上れないママの側に行くと、アイテムボックスからありったけの回復薬を取り出して振りかけた。


「けこー?」


 突然の出来事に困惑したような鳴き声を上げている。


「ボクたちは敵じゃないよ。後でちょっと相談したいことはあるけど、敵じゃない。だから一緒にあのデカファングを倒そう」


 ママの目をじっと見つめて――というか見上げて?――話しかける。ママは少し考え込むようにしていたけれど、やがて覚悟を決めたのかしっかりと頷いてくれた。


「それじゃあママはボクが合図したら麻痺の息をあいつに吐きかけて。その後の判断は任せるから、隙を見て上から攻撃して。絶対に巣を守ろうね!」

「こけー!」


 回復薬が効いたのか元気に起き上がるママ。

 そしてボクたちは皆の待つ戦場へ。


 デカファングはバックスさんたちの挑発に乗って、あっちへ行ってはこっちへ行ってを繰り返していた。

 イーノとニーノも小さい体を上手く活かしているみたい。


 タイミングを見計らって……。よし、今!


「皆離れて!ママお願い!」


 ボクの声に従って全員がデカファングから距離をとると、ママ渾身の麻痺の息が吐きかけられた!


「ゴガアガガアアアガガガ!!!!」


 ばっちり!思いっきり麻痺の息を浴びたデカデカファングがしびしびと痺れている。


「ナイスだリュカリュカ!うおおおりゃあああああ!!」

「ふぎふぎ!」

「ふがふが!」


 鼻の頭めがけてバックスさんのバトルアックスが叩きこまれると、イーノとニーノそれぞれ前足にかじりついている。

 ママは上空へと飛び上がったかと思うと、


「こっこけー!!」


 急降下して――


 ドスン!!


 ひ、ヒップアタック!?


「ゴブハア!」


 大地を揺らすほどの一撃を受けて、デカファングは地に伏せったのだった。


「よっしゃー!!」


 バックスさんの声が森に響き渡る。ママの協力のお陰とはいえ、あんなとんでもないデカ物をやっつけたのだ。その気持ちはよく分かる。イーノとニーノも嬉しそうに走り回っていた。


「ママ、ありがとう」

「こけ」


 なんくるないさーって感じで返事をしてくれるコッカトリスママ。

 すると、ママの姿が光り輝いたかと思えば、みるみる内に小さくなっていく!?光が消えた後、そこにいたのは体長二メートルほどのコッカトリスだった。


「ち、小さくなった?いや、元の大きさに戻ったのか……?」

「マ、ママ!今のってもしかして体格変化の特殊技能!?」

「ここけ」


 詰め寄るボクにちょっとびっくりしたようだけど、コクリと頷くママ。

 やっぱり!一緒に街中を歩くためにも、イーノとニーノには絶対に習得してもらわなくちゃ!


「リュカリュカ、知っているのか?」


 いけない。バックスさんを置いてけぼりにしちゃってた。急いで体格変化に付いて説明する。


「ほほう、テイムモンスターが習得することのできる特殊技能か。……おい、どうしてそのコッカトリスが使えるんだ?」

「えっと……、隠しクエスト用のイベントモンスターだから?」

「ううむ……。それだけではない気もするんだが……。まあ、今ここで俺たちが悩んだところで答えは出ない、か」


 詳細を掲示板に書き込んで、後は検証チームの人たちに期待ということになりそう。

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