第20話 具材を求めて
待ち合わせの場所にいたのはでっかいバトルアックスを背負った、いかにも戦士!という感じの人だった。
「えっと、すみません。バックスさんでしょうか?」
「そうだ、が……。君は――」
「リュカリュカです」
頭の上のイーノを見たバックスさんが何か言う前に早口で名乗る。
うん。言わせないよ!
「ああ。よろしくリュカリュカ」
一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐににこやかな笑顔で言うバックスさん。
もしかすると、この人も自分の『クエストの裏ボス』というあだ名が気に入っていないのかもしれない。
「それで今日の予定なんだが、ラーメンの素材集めで構わないんだよな?」
「あ、それなんですけれど、実は今日来る予定だった人がリアルの急用で来れなくなってしまったんです」
「リアルでの急用か。それは仕方がないな」
ご理解いただけて何よりです。
「それで、代わりにリュカリュカが俺と一緒に行くのか?」
「えっと……、ボクのレベル的にどうなんでしょうか?」
ボクのレベルが七で、イーノとニーノが六レベルまで上がっている。
だけどバックスさんたちが行く予定だった魔獣の森は、
「適正レベルがクラスチェンジ直前の十八、最低でも十五は欲しいところだな」
という場所だった。
「だが、十レベルまではデスペナルティもあってないようなものだし、リュカリュカに覚悟ができているのなら一緒に行くか?」
『アイなき世界』のデスペナルティは、ステータス値の一時減少だけというとっても緩いものだ。
特にレベル十までは、ステータス値の一割をレベル分の間減少という、ほとんどペナルティにならないようなものだったりする。
その分、十一レベル以上、特に上位職になるレベル二十以上になると減少割合も時間も急激に増えていくそうだ。
「いいんですか?足手まといにしかなりませんよ?」
「ああ。ソロで行くのも味気ないからな。パーティーを組む以上できる限り守るようにはする。絶対とは言い切れないが、な」
「行く!行きます!よろしくお願いします!」
もうしばらくの間は
そんな訳で、ボクたちはバックスさんと臨時のパーティーを組んで魔獣の森まで出かけることになった。
道中バックスさんは色々なことを教えてくれた。
掲示板などで言われている通り、PvPマニアなことを除けば面倒見の良い人みたい。
「デスファングの肉で焼豚、コッカトリスの卵で煮玉子か。他もそれに負けない厳選素材を使うってことだし、完成したらとんでもないラーメンになりそうだな」
呆れながらもどこか楽しそうにバックスさんが言う。
「二大美食ギルドの『料理研究会』と『美味倶楽部』が取り仕切っていますからね。素材のレア度がどんどん上がってます……」
本当、どうしてこうなったんだろう?
ラーメン作りにこれだけ大勢の人が関わっていると知ったら『はぐれ者』さんもきっとびっくりするだろうね。
ボク?もうびっくりを飛び越えて諦めの境地に入ってます。
ちなみに両ギルドは揃って麺の再現に取り組んでいる最中だとか。
そして、バックスさんが言った大型の猪型魔物デスファング――ドでもゴでもないよ。どことは言わないけど――のお肉と、鶏と蛇が融合したようなコッカトリスの卵を取ってくるのがボクたちのミッションだ。
「来る途中でも話したが、デスファングは遠方から一気に突撃してくるし、コッカトリスは麻痺の息を吐いたり、頭上から強襲したりしてくる。森の中ということもあって、戦闘よりも索敵の方が重要だ。頼んだぞ」
「はい。精一杯がんばります」
「ふぎゅ」
「ふご」
という注意を受けて、いざ魔獣の森の中へ。襲ってくる魔物を――バックスさんが――撃退しながら奥へと進んでいく。
そして一時間が経った頃、
「おかしいな。これだけ歩き回っているのに、デスファングにもコッカトリスにも遭遇しないぞ?」
出てくるのは狼型の魔物ばかりで、たまに昆虫型が現れるだけだった。
「誰かが倒したばかりなんでしょうか?」
いわゆる湧きが追い付いていないということ?
「それだと他の魔物がいるのが変だ。多少は無視できたとしてもこれだけの数に邪魔されることなく、特定の魔物を倒すことはできないだろう」
「そうなると」
「原因はアレだろうな……」
魔獣の森に入るついでだからと、近くの村で受けた「森の様子を見てきて欲しい」という依頼がクエストの発生条件だったみたいだ。
この『アイなき世界』では『冒険者協会』で受ける通常のクエストの他に、NPCとの会話などで発生する特殊なクエストがある。
こちらは通称『隠しクエスト』と呼ばれていて、クリア条件どころか、発生しているのかどうかすらも分からないというステキ仕様だ。
今回もどうやらそれに引っかかってしまったみたい。
「よりによって探しているデスファングとコッカトリスが出なくなる隠しクエストとは……。運営の悪意を感じるな」
バックスさんの言う通りだね。
どうせならデスファングとコッカトリスばかり出てくるものならお肉と卵が大量に手に入ったのに。
死に戻る可能性については今更だし。
グギョオオオオオ!!!!
その時、どこからか獣の叫び声のようなものが響いてきた。
「イーノ、ニーノ!どっちから聞こえた?」
ボクの問いかけに二匹とも同じ方角を向く。
「森の奥の方だな」
顔を合わせて頷く。どうせこのまま手ぶらで帰る訳にはいかないのだから、とりあえず行ってみよう。
慎重に木々をかき分けつつ進んでいく。
そして開けた場所に出たボクらは呆気にとられてしまっていた。
「怪獣物の特撮映画かよ……」
そこにいたのは超巨大なデスファングと、同じく超巨大なコッカトリスだった。
その二頭が怪獣大激突って感じでドッカンバッタンと戦っている。
「ワイルドボアでも最大十メートル近く大きくなるっていう話を聞いたことがありますけれど、あれって、それ以上の大きさですよね?」
つい先日、鍛冶師のクジカさんから聞いた話を思い出して口にする。
「ああ。大体の目算だが、十四、五メートルはあるんじゃないか。それより問題なのはコッカトリスの方だ。今までの目撃例は最大で二メートル弱だ。こいつはどう見てもその七倍はあるぞ」
二かける七で十四メートル。うん、そのくらいはありそう。
「どうしましょうか、これ?」
「どうするもなにも、とりあえず様子見しかないだろう。こんな巨大生物二頭に二人と二匹で挑むなんて、無理無茶無謀の三点セットだ」
「ですよねー……」
とりあえず巻き込まれないように一歩下がって森の中から様子をうかがうことになった。
魔獣の森の怪獣大決戦は、超巨大デスファングが終始優勢を保ちながら続いていた。
それは漁夫の利を狙っているボクたちからしてみれば、良い状況とはいえない。
できればクロスカウンターで相討ち、両者ノックアウト!になって欲しいと願うリュカリュカちゃんです。
「コッカトリスの動きがどうも精彩を欠いているような気がするな」
隣で観戦していたバックスさんがふとそんな言葉を漏らした。
「そうなんですか?」
だけど、コッカトリスを始めて見たボクには何がどうおかしいのかさっぱり分からない。
「得意の麻痺毒を使おうとしないし、何より短時間だが飛べるという利点を全く生かしていない」
言われてよく観察してみると、確かにコッカトリスは正面からデスファングとぶつかり合っている。
うわ!牙が刺さって羽毛が赤く染まっている!
反撃で頭を嘴で突いているけれど、堅い毛皮に阻まれてこっちはあんまり効いていなさそう。尻尾の蛇――普通なら大蛇です――も懸命に噛みついたりしているけれど、これも大したダメージは与えられていない様子。
うーん、どうもコッカトリスはデスファングがこれ以上進むのを阻止しようとしているように見える。
まるでなにかを守っている、よう、な……!?
「もしかして!」
目を凝らしてコッカトリスの背後にあるだろうものを探す。
「あった!バックスさん、コッカトリスの後ろにある木の枝が分かれている辺りを見て下さい!」
「巣か!?」
そう。そこにあったのはコッカトリスの巣だった。
親の大きさに対してそれほど大きくないのが不思議。
つまり目の前で起きている怪獣大戦争とは、超巨大コッカトリスの巣を見つけて卵や雛に襲いかかろうとする超巨大デスファングと、その魔の手から子どもたちを守ろうとする超巨大親コッカトリスとの戦いだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます