第18話 どんどん話が大きくなーる

「ラーメン?さすがにまだ再現に成功したっていう話は聞かないかなあ。そっちはどう?」

「いや。俺も知らないな」


 シチューのお椀を返しながら顔馴染みになっている店主のお姉さんに尋ねてみた結果がこれ。

 隣の焼鳥屋のおじさんにも声をかけてくれたけれど、やっぱり知らないみたい。


 ここは古都ナウキの中心部から南へと伸びる通称屋台通り。プレイヤーとNPCが入り乱れて露店を出している賑やかな場所だ。

 特に食べ物系が多くて『古都で珍しいものが食べたいのならココ』とか、『料理系生産職の登竜門』だとか言われている。


「確か麺を作るのにかんすい?がいるんだったよな。海、というか塩水がいるのか?」

「大塩湖沿いの町に移った人たちもいるけど、ラーメンを完成させたっていう話は掲示板にも上がっていなかったわよ?」


 大塩湖まで行くには馬車を乗り継いでも数週間はかかってしまう。

 更にスタート地点であるここナウキから離れた分、出現する魔物は強くなっているので、例えラーメンが売られていたとしても今のボクたちには荷が重すぎるよ。


 それ以前に強い魔物と戦えるようにするために武具を揃えようとしているのに、その武具を作ってもらうために強い魔物がいる場所に行くって何?

 完全に本末転倒になっちゃってるよ。


「それで、どうしてまたラーメンを探しているの?」

「えっと、それは……」


 お姉さんの質問につい口ごもってしまう。

 『はぐれ者』さんはNPCの中では有名な錬金術師だ。錬金は特殊な効果を付加――いわゆるエンチャントっていうやつ――できるので一定以上の武具の強化には欠かせない。

 詳しく話してしまうと『はぐれ者』さんのところに大量のプレイヤーが押しかける、ということになっちゃうかもしれない。


「まあ、イーノちゃんとニーノちゃんだっけ?その子たちの装備品を探す関係のイベントか何かなんでしょうけれど」


 話すべきかどうか迷っていると、お姉さんの口からとんでもない台詞が!?


「どうして知っているんですか!?」

「どうしてって、リュカリュカちゃん、街中の武器屋や防具屋に聞いて回っていたでしょ?『ウリ坊ちゃん』がテイムモンスター用の装備を探しているって結構噂になっているわよ」


 うそーん……。

 なんでボクのことがそんなに噂になってるの?もっとすごいプレイヤーはいくらでもいると思うんだけど……。

 そんな風にびっくりしたり微妙に疲れたりしていると、甲高い電子音がして〈フレンドからのメールが届きました〉というメッセージが。


「メール?」


 みなみちゃんさんからだ。

 なんだろ?

 お姉さんたちに断りを入れてメールを開いた。そこには


〈「色々と聞きたいことがあるので、今すぐ『聞き耳のウサギ亭』に来て下さい」〉


 とだけ書かれていた。

 それしか書かれていないはずなのに、どうしてかな、不思議なプレッシャーを感じるのは……?


「リュカリュカちゃん、顔色悪くなっているけど、大丈夫?」


 へえ、心因性の体調の変化まで再現できるなんて『アイなき世界』で使用されているVR技術は本当にすごいね。……と、現実逃避してみたり。


「リュカリュカちゃん!?リュカリュカちゃん!?」

「あ、だ、大丈夫です。ちょっと呼び出しがかかったので、行ってきます」

「そう?無理はしないようにね」


 気遣ってくれる言葉に「はい」と返事をして別れる。

 ラーメンについてはお姉さんもおじさんも情報を集めてくれると言ってくれた。

 本職の人の情報網にちょっぴり期待しながら、みなみちゃんさんの待つ『聞き耳のウサギ亭』へと急ぐ。




「さあ、きりきりと知っていることを話してもらいましょうか」


 中に入ると同時に数人のプレイヤー――もちろん皆テイマーだ――に食堂へと連行される。そして座らされた途端、テーブルの向かいにいたみなみちゃんさんからそう言われた。


「えっと、何が起きているのでしょうか?」


 周りを見回してみると、みなみちゃんさんだけでなく皆ニコニコといい笑顔をしている。

 奥の方ではフミカさんたちお店の人が苦笑いしていた。


「素直に話してくれるならなにも怖いことなんてないわよ。ほら、カツ丼食べる?」


 コトリとボクの前に丼が置かれる。

 ふわとろの卵に、所々から顔を出している揚げられたカツが美味しそう。

 でもお米はまだ発見されていない――存在していることは公式発表されている――はずだから、麦飯?その点はちょっと残念。


 頭の上のイーノが物欲しそうに見ているのが、そして背中のニーノが匂いに釣られてもぞもぞ動いているのが分かる。

 君たち、それって色々とどうなの?

 まあ、テイムしたモンスターは元の動物や魔物とは異なる特殊な存在になる、という公式見解へりくつもあるので問題はないのかな。


 補足しておくと、この公式見解、テイムまたはサモンしたモンスターと一緒に同じ食事がしたい!というプレイヤーからの熱い要望に応えたものだったりする。

 未来の地球――の地下――という設定はあるものの、ファンタジーな世界観だし、そのくらいまあ良いんじゃない、という軽いノリで決まったというのは結構有名な話です。

 以上小ネタ終わり。


 それよりも今の状況の方が問題だよ。これってつまり取り調べってことだよね?


「えっと、テイムモンスター用の装備品のこと、ですか……?」


 尋ねると皆一様にコクリと頷く。

 これは観念するしかなさそう。迷惑になったらいけないので、せめて固有名詞だけは伏せて今までのことを説明することにした。


「ふむふむ。つまり、まずテイムモンスターでも武器や防具を装備すること自体は可能ということね。

 次に今のところは取り扱っている店はないけれど、作ってくれそうなNPCはいる、と。それなら生産職のプレイヤーでも相談に応じてくれる人がいそうね。

 そして最後にリュカリュカの場合は更に錬金術による特殊効果を付加してもらわなくちゃいけなくて、そのためにはラーメンが必要になっている。

 まとめるとこんなところかしら?」

「そうですね。実際にアルコースさんのお店に置いてあった装飾品の類いは装備できましたから。それに特殊効果が必要ないなら案外簡単に作ってもらえるかもしれません。あ、素材は持ち込まないといけないかも」


 みなみちゃんさんのまとめに補足する。


「その辺りはプレイヤー用の武具と同じだから大丈夫よ。それより特殊効果の方が問題ね。誰か錬金の技能を持っている人はいる?」


 その問いかけに集まった人たちは一斉に首を横に振っていた。

 あ、使えたとしてもロヴィン君のようにレベルが足りない場合もあるんだった。


「装備者に合わせて自動で大きさが変化するなんて難しい効果を付けようとすれば、その分錬金も高レベルが要求される。当然といえば当然の話か。一応テイマー掲示板でも聞いてみるけど、あまり期待しないでね」

「え?あ、はい。どうもです」


 話に付いていけなくて、曖昧な返事になっちゃった。

 頭を下げた時にイーノがずり落ちそうになったのはご愛嬌。


「さて、そうなるとやっぱりラーメンを探しだしてNPCの錬金術師にお願いするしかなさそうね」

「そういうことになりますね。……ってもしかして手伝ってくれるんですか?」

「もちろんよ!こんなすごい情報を教えてくれたのだから、そのくらいはしないとね!」


 周りのテイマーの皆もやる気になっているみたい。

 こうしてボクのラーメン探しは、たくさんのテイマーとそれを見たさらに大勢のプレイヤーによる大掛かりなものになっていくのだった。


 追伸。カツ丼はスタッフ――イーノとニーノ――が美味しくいただきました。

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