第17話 依頼を……されちゃった!?
「ラーメン食べたい」
出会って第一声、その人はそう言った。
「はい?」
「だからラーメン。私ら人間が地上にいた頃食べていた料理らしいんだけど、それがすごく美味いそうなんだよ!だからラーメン食べたい」
思わず顔を見合わせるボクとロヴィン君。
あの後、クジカさんの工房から出て街を抜け、やって来た郊外のあばら家に『はぐれ者』なる錬金術師はいた。
いたのだけれど、自己紹介も何もしないうちから「ラーメン食べたい」と連呼し始めたのだ。
「おっさん、せめて挨拶くらいさせろよ……」
ロヴィン君がいっても聞く耳持たず、ついには
「らーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめんらーめん」
と呪文か念仏のように唱えだしてしまった。
「ダメだ。こうなったらラーメンを持ってくるしかないよ」
「そっかあ……。分かった。何とかラーメンを探してみるね。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「いいよ、いいよ。こっちこそこんな中途半端な状態で抜けちゃってごめん」
ロヴェル君は申し訳なさそうにしていたけれど、これから人に会う――しかもプレイヤー――用事があるのだから仕方がない。
むしろ無理矢理連れて来ちゃったボクの方がごめんなさいだ。
「知り合いの生産職のプレイヤーにはそれとなく聞いておくから、何か分かれば連絡するよ」
「ボクの方も手掛かりがつかめたら連絡するね。……あれだけラーメン連呼されたらこっちも食べたくなっちゃうよ」
だよねえ、と二人してひとしきり笑いあうと、ロヴィン君は街へと先に帰っていった。
「さて、と。これからどうしようっか?」
街に戻って聞きこみをした方が良いのだろうけれど、せっかく外に出てきたのだから、ちょっと狩りもしていきたい。
「そうだよね。情報を貰うのにも対価が必要になるし」
「ふご」
「ふごふご」
二匹もやる気になっているみたい。
それじゃあプレイヤーにもNPCにも人気のある野兎の肉及び、森兎の肉を確保しに参りましょう!
古都ナウキの周りには森が多い。
隣接する他の町や村に向かう街道周辺を除くと、街の近くにまで森が迫り出してきている場所もある。
ボクたちはあばら家から離れると、そんな街のすぐ近くの森の外縁部へと来ていた。
「ニーノ、逃がさないように向こうから回り込んで!イーノは動きが止まったところにタックル!やっつけて!」
「ぷぎ!」
「ごご!」
右手に
いた!
「『飛礫』!」
土属性の基本魔法で発見した森兎を攻撃する。他の属性の魔法と違って、これだと毛皮に傷を付けることがないから高品質になり易く、買い取り額も割増しになるのだ。
ゴッ!という鈍い音がして森兎が地に伏せる。何度やってもこの瞬間は心が痛む。
奪った命に祈りをささげて、アイテムに変化させるための専用はぎ取りナイフ――耐久度なし、紛失なしの特殊アイテム――を突き立てる。
すると、すぐに上質な森兎の毛皮――狙い通り。ニヤリ――と森兎の肉へと変わる。
「ふごー!」
イーノの雄叫び?が聞こえてきたので、向こうも終わったみたい。
ゲームの設定としては倒したモンスターは一定時間で消えてしまう。検証チームによるとアイテム化ができる時間はおおよそ一時間で、プラスマイナス五分ほどのブレがあるとのこと。
だからよっぽど大規模戦闘を行わない限り消失するということはない。
さらにアイテム化ができるのはモンスターを倒したプレイヤーかそのパーティーメンバーのみとなっているため、他のプレイヤーに横取りされる心配もない。
「ぷぎゅー!!」
「ごごご!!」
だけど何事にも例外はつきもので、突然二匹が上げ始めた唸り声に急いで森の外へと向かうと、狼型の魔物、ファングウルフ三匹と対峙していた。
イーノたちが狩った野兎を狙って現れたみたいで、その名前の通り噛み付き攻撃が危険な魔物だ。ちなみに森の奥には、爪での攻撃が得意なクローウルフや、上位種であるファンクローウルフもいる。
どれも接近戦には強いけれど、遠距離攻撃には弱いという共通点があるので……。
「『飛礫』『飛礫』『飛礫』!!」
魔法攻撃の絶好のチャンスだった!
人の得物を奪おうとする魔物に躊躇なんてしてやるもんか!
いい感じに命中して怯んだところに全軍突撃!
「こーんぐらっちゅれーしょーん!!」
牙狼の毛皮に、牙狼の牙を各三つ追加で獲得することができました!
「やっぱり早めにお前たちの武具を確保したいね」
イーノとニーノの頭に薬草を潰したものを塗りぬりしながら呟く。
二匹は突進という攻撃方法のため、どうしてもダメージを負ってしまう。
今回のように格下相手だから何とかなっているけれど、やっぱり今の状態では強敵を相手にするには不安過ぎるかな。
とりあえず今ので予定していたウサギの肉は確保できた。
今回のようにたまに横やりが入ることがあるけれど、やっぱりここは良い狩り場だ。残念ながらもうすぐ開発でなくなってしまうことが決まっているけれど。
なんでも、冒険者――要するにプレイヤーだね――が大量にやって来て店や屋台を出すものだから、木材が不足してしまったらしい。
街のすぐ側だけど、入口から少し歩くことになるせいか穴場で、レベルアップと素材――主にお肉!――集めに便利だったのに……。
おっと、くよくよしていても仕方がない。今度は街に戻って情報収集をしなくちゃ。
それにしても、ラーメンかあ……。
NPCのお店じゃ扱ってないよねえ。もしそんな店があるなら『はぐれ者』さんもそこで食べているだろうし、何よりプレイヤーの間で話題にならないはずがない。
そうなると生産職のプレイヤーさん頼りになる?
最悪、自分で作ることも考えておいた方が良いかもしれないなあ……。
うっ……。狩りで動き回ったところにラーメンのことを考えたから、本格的にお腹が空いてきちゃった。
見ると、イーノとニーノの二匹もどことなく疲れたような顔つきになっている。
「聞き込みも兼ねて屋台通りでご飯にしよっか」
屋台通りでは多くのプレイヤーがお店を出しているので、運が良ければ美味しいラーメンにありつける、じゃなかった、ラーメンを見つけることができるかもしれないし。
「ぷきゅー!」
「ふーごー!」
二匹も賛成みたい。とにかく腹が減ってはなんとやら。
体重も栄養バランスも気にせずに存分に美味しいものが食べられるゲームライフを楽しむことにしましょうか!
ボクたちは元気よく屋台通りに向かって歩き始めたのだった。
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