第14話 新装備でパワーアップ!(予定)

 鍛冶の師匠の師匠であるクジカ老師と、古都ナウキの有力商会会長であるイナッハさんの悪ノリ――うん、あれは間違いなく悪ノリだった――によって完成した『無限弾』効果付き超ド級性能の矢――ゲーム内の名称は、世界樹の矢――を手に入れた僕、ロヴィンは 周辺の魔物モンスターを片っ端から討伐して回って、はいなかった。


 その理由が、


「高っ!修繕費めっちゃ高っ!」


 ということだった。

 この『アイなき世界』には武器や防具に耐久度が設定されている。耐久度がなくなっても壊れたりはしないけれど、徐々に性能が下がっていく。

 それを回避、もしくは回復するために修繕、つまりはメンテナンスという行為が必要となる。


 ちなみに耐久度がゼロのまま使い続けていると、修繕しても完全には性能が回復しなくなる。

 剣で例えると、刃になる部分がなくなっていく、と考えてもらえれば分かりやすいだろうか。

 そんな訳で、定期的な武具のメンテナンスは冒険者プレイヤーの基本ということになる。


 そしてこの耐久度だけど、なんとびっくり矢や弾といった消耗系の武器にも設定されていたのだ。

 ゲームを始めてからずっとアーチャーで通してきたけれど、今まで全然知らなかったよ……。

 普通の矢の場合は耐久度がなくなるよりも前に、矢そのものを消失することが大多数だったので気が付かなかった。

 思い返してみると、再利用した矢で攻撃した時にダメージが低かったことがあったかもしれない。

 ところが『無限弾』の矢になると、消失するということがないので耐久度の低下していることが分かった、ということだった。


 現在、修繕を行えるのはNPCに限られていて、メンテナンスショップや武具を製作している鍛冶屋に持っていかなくてはいけない。

 検証チームによるとプレイヤーが修繕を行えるようになるには、最低でも鍛冶と錬金の二つのスキルが必要なのではないか、と推測されているとのこと。

 あれ、そういえば僕は二つともスキルを持っているけれど、修繕はできないな。……スキルレベルが低いのか、それとも他のスキルが必要なのかもしれない。覚えていたなら後で掲示板に書き込んでおこう。


 話を戻すと、僕の場合は鍛冶を教わったジュージ師匠に修繕をお願いしている。

 『無限弾』の事情も知っているし、他のプレイヤーにはほとんど知られていない穴場だから、という事もある。


「あのなあ、素材を考えてみろ。これでも弟子だから安くしてやっているんだぞ」


 僕の叫びに師匠が心底呆れた、という顔をしている。

 えっと、素材というと世界樹の小枝、オリハルコンに不死鳥の羽だったっけ?

 一応イベントなどでその存在は確認されているけれど、攻略最前線にいるプレイヤーでも入手できていない超が何個も付くレア素材だ。

 ……うん。それは高くなって当然だよねー。あはは……。


 いや、それでもたった三回しか使っていないのに修繕費が五桁というのはいかがなものでっしゃろか!?

 このままじゃ修繕費だけで破産しちゃうよ!


「せっかくの最強装備なのに、コストパフォーマンスが悪過ぎて使えないなんて……」


 宝の持ち腐れもいいところだ。


「なあロヴィン、そろそろ矢だけじゃなくて、弓も、それと防具も新調した方がいいんじゃないのか?」


 落ち込む僕に師匠が言う。

 そして僕は自分の装備を取り出して見回してみる。ああ、確かに今の僕のレベルと、適正とされる狩り場にいる魔物の強さに対して、残念ながら装備品は劣っている。

 だけどメインウェポンの弓は師匠に弟子入りする時に記念にといって作ってくれたものだ。それに防具類にも始めて揃えたセット装備――複数装備するとボーナスがある――ということで、それなりに愛着がある。

 感傷だとは分かっていても、弱くなってきたから変える、と簡単に切り替えるには抵抗があった。


「武器や防具だけじゃない、道具っていうのは適切に使ってこそ意味があるもんだ。大切に使ってくれるのは嬉しいが、切り替え時を間違っちゃいかん」


 う……、見透かされている……。


「世界樹の矢が切り札としてしか使えない以上、他の装備を新調しておくべきだぞ」

「……分かりました。装備を新調することにします」


 そうと決めたら即実行!と言いたいところだけれど、問題がある。

 ここ、古都ナウキはゲーム開始地点であるため、一般的に取り扱われているのは初心者や低レベル帯のプレイヤー向けのものとなっている。

 プレイヤーたちが広範囲に広がった影響から、ようやく流通が活性化し始めたのは最近のことだ。


 だからそれなりに高性能な装備品を手に入れようとするならば、他の町にあるNPCの店まで足を伸ばすか、プレイヤーたちが開いている露店に行くか、のどちらかとなる。

 後はイベントの報酬に賭ける、という手もないことはないのだけれど、かなりギャンブル性が高いと言われている。


 ギャンブル性という点ではプレイヤーの店の物も当たり外れが激しいらしい。中古品なのはともかく、酷い場合になると未修繕で使用を続けたために性能が最低値にまで下がっている物が何の説明もなく出品されていたりするそうだ。


 結局、少し遠出してNPCの店に行くのが妥当のように思えるが、ここにも一つ問題がある。

 NPCの店に置かれているのは基本的な性能しかないのだ。

 『無限弾』は言うに及ばず、付加効果が一切付いていない。そのため下手をするとかえって今よりも弱くなってしまう、という可能性もある。

 もちろん後から付加効果を付けることはできるのだけど、とってもお高くなってしまう。


 今使っている弓のように、特殊なイベントを起こすのが一番理想に近いアイテムを手に入れられる、と言われているのだけれど、特殊なだけあって発生条件が不明だったりする。

 嘘か本当か、検証班がさじを投げるほど、条件設定が細かいそうだ。


 あ、プレイヤーの中でもいわゆる生産職と呼ばれる人たちに作成をお願いするという方法もあったっけ。確かに出来は良いという話を聞くけれど、時間もお金もかかる上に材料を持ちこまなくちゃいけないんだよね……。


「うーん、一般の店売りは性能が今一つだし、冒険者のお古はハズレが怖いし……。師匠、この近くにすっごい効果が付いた超高性能な武具をやーすーく・・・・・取り扱っているお店とか知りませんか?」

「お前なあ……。そんな店をイナッハさんが見逃していると思うか?」

「おっしゃる通りです」

「それよりお前、鍛冶だって錬金だってできるんだから、改造するなり自作するなりすればいいんじゃないか?」


 なん、だ、と……!?

 そうか!そ、その手があった!


「完全に忘れていたな」


 師匠がジト目で睨んでくるけど気にしたら負け。

 既にその時の僕は、どんな効果を付けようかと外部のまとめサイトで調べ始めていた。

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