第15話 まずは相談から
古都のお店が並ぶ通りの一角に知る人ぞ知る女性冒険者たちに人気のお店がある。
看板にビールのようなお酒――エールだっけ?――が入ったグラスが描かれているそのお店は酒場ではなく、小物商さんだ。
看板は店主であるアルコースさんの持ちネタに由来しているのだけれど、それについては割愛します。
色々と寒いので。
どうしてこの小物店が人気かというと、可愛くて実用的なアクセサリーを取り扱っているから。
しかも安いので、低レベルのプレイヤーの懐にも優しい安心なお店なの。
「アルコースさーん!いますかー?」
入口近くで新作のアクセサリーを見ている常連さんたちを避けて店の奥へ向かう。
「はいよー。お?リュカリュカちゃんじゃないか。久しぶりだね」
「お久しぶりです。今日はちょっと相談したいことがあって来たんですけど、時間あります?」
「ん?何かな?恋愛相談?」
「それはプリムさんにお願いしますよ」
ほとんどネタになってしまっているアルコースさんの台詞に笑いながら答える。
ちなみにプリムさんというのはアルコースさんの奥様。綺麗でみなみちゃんさんと同じくらいの抜群のプロポーション!しかも性格も良いと、ボクの中で嫁にしたい人ナンバーワンな若妻さんだったりします。
「いくらリュカリュカちゃんでもうちの嫁はあげないよ」
ボクの思考を読んだかのように予防線を張ってくるアルコースさん。
「何をやっているの、二人とも……」
しばし睨み合うボクらに呆れたような声がかけられる。
話題のその人、美人妻のプリムさんだ。
「丁度良かった。リュカリュカちゃんの相談に乗っているから、しばらく店番を頼むよ」
「はいはい。リュカリュカちゃん、ゆっくりしていってね。イーノちゃんとニーノちゃんもね」
素敵な笑顔のプリムさんに礼を述べて、店内の一角にある相談コーナーへと移動する。
アルコースさんはアクセサリーのカスタム――限度はあるけど――にも結構簡単に応じてくれる。これもきっとお店が人気な理由の一つだと思う。
「それで、相談っていうのはなんだい?」
「実は、この子たち用の装備を作ってもらえないかと思って」
そう言ってボクはイーノとニーノの二匹をテーブルの上に置いた。
「テイムしたモンスター用の装備か……。物によってはできないこともないだろうけれど、何か要望はあるかい?」
「イーノは前に出ることが多いので、できれば武器と防具両方が欲しいです。ニーノはボクを守ってくれることが多いから、防具だけあればいけると思います」
「つまり二匹とも防具が、加えてイーノ君には武器も欲しいということか。えっと、本職の武器屋や防具屋には?」
尋ねられてボクは首を横に振る。
「何軒か回ってみたんですけど、どこも無理だって断られちゃいました」
「そっかあ……。うーん、ゴメン。武器や防具はさすがに俺でも無理だわ」
「そうですか……」
覚悟はしていたけれど、やっぱり残念。そんなボクを見かねてか、アルコースさんはこんなことを言いだした。
「だけど置いてあるアクセサリーで装備できる物があるかもしれないから見ていってごらん。お詫びに安くしてあげるよ」
正直、ウインクは似合わなかったけれど、申し出はありがたく受けさせてもらうことにする。
結局、防御力を少しだけ上げるネックレスと、運が良くなる――という噂の――ミサンガを二匹にそれぞれ購入した。
「毎度あり。買ってくれたお礼という訳じゃないけれど、ここに行ってみるといい」
アルコースさんが渡してくれた紙には『クジカ鍛冶工房』という名前と、地図が描かれていた。
「気難しいドワーフの爺さんだけど、腕は確かだよ」
ちょっとおっかないけど、せっかくの紹介だし行ってみようかな。
ボクは二匹と一緒にアルコースさんとプリムさんにお礼を言って、地図を頼りに『クジカ鍛冶工房』を目指すことにした。
着いた先はいろんな工房が立ち並ぶ一画だった。
確か、生産職の有名なプレイヤーも何人かここにお店を出していたはずだ。そうした人目当てなのか、始まりの街とは思えないような立派な装備を身に纏ったパーティと何組もすれ違った。
「ここ、かな?……ごめんくださーい。誰かいますか?」
誰もいないのか、薄暗い工房の中にボクの声だけが響いていく。
「ぷぎゅ……」
「ふごご」
扉も何もない石造りの建物は不気味なほどに人の気配がない。
不安になったのか、頭の上でイーノが小声で鳴くと、それを元気づけるように背中のニーノが鳴いた。二匹のやり取りにほっこりしてしまう。
「嬢ちゃん、わしの工房に何か用か?」
「わわっ!?」
突然、後ろから呼びかけられて飛び上がる。
び、びっくりした……。
恐るおそる振り返ると、頑固一徹!という感じのドワーフのおじいさんが立っていた。
「あ、あのボクはリュカリュカ・ミミルって言います。クジカさん、でしょうか?」
「確かに、わしがクジカだ」
その怪しい者を見るような目つきは止めて欲しいんですけど……。
あ、でも見慣れない人間が自分の工房を覗き込んでいたら警戒して当然かも。
返事をしてくれただけマシ?
「小物商のアルコースさんから紹介されてやってきました」
「アルコースの?……ふむ。どうやら込み入った事情があるようだな。中で話を聞こうか」
と言ってボクの横を抜けて中に入っていくクジカさん。
あれ?アルコースさんとはどういう繋がりなんだろうか?
「まあ、座れ」と促されて出された椅子に腰かける。ドワーフ用なのかその椅子は小柄なボクでも少し低く感じられた。
「鍛冶屋のわしと小物商のアルコースとの関係が気になるか?」
「ええっ!?どうしてそれを?」
読心術ってスキルあったっけ?それとも魔法?
「そう顔に書いてある。……というのは冗談で、独り言が漏れていたぞ」
ぼんっ!という音が出そうなくらい一気に赤面するボク。
そんな様子を見てクジカさんはニマニマと笑っている。
うう、恥ずかしいなあ……。
それにしてもクジカさん、頑固一徹という第一印象とは違って、結構お茶目な人みたい。アルコースさんと知り合いなのも納得できる。
「アルコースの奴は飲み友達兼わしの弟子見習いだ」
話によると、鍛冶工房と銘打ってはいるものの、クジカさんは様々な素材を扱うことのできる
最近では、何やらものすごい性能の矢を作ったと言っていた。
アルコースさんとは数年前に酒場で意気投合して、それで色々と教えるようになったのだとか。
「正式に弟子入りした訳じゃないから、弟子見習い、ですか」
「そういうことじゃな。まあ、弟子たちもそれぞれ一人立ちして手持無沙汰だったから、いい暇つぶしになったわい。ところで、嬢ちゃんの用件は一体何だ?」
なんかキラキラした目で見られているんですけど!?
これは、あれ?ボクもいい暇つぶしとして認定されちゃったってこと!?
小心者のボク――ちょっと二匹とも!どうして驚いたように身動ぎをしているの!?――には断って帰る、なんていうことができるはずもなく、ここに来るまでの経緯について話すことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます