第13話 上位職にも希望はない……

 皆さん、こんにちは。

 充実した『アイなき世界』での生活を送っていますか?

 オレ、グドラクは相変わらず魔王やってます。


 この前の強制イベでヒュージビッロック、フロ、スライム?……もうデカ岩スライムでいいか!

 そのデカ岩スライムを倒してあっという間にレベルが十八も上がってしまった。

 イベント用の特殊モンスターだったにしてもレベルのあがり方が異常だ。


 多分、取得経験値アップか何かの隠しスキルがあるんじゃないだろうか、と予測したオレは、調査と確認のために古都ナウキから外、つまり戦闘フィールドへと出てみたのだけれど……。


 いきなり世紀末ヒャッハーPK集団に襲われていた!


「水寄こせー!食い物寄こせー!」


 いやいやいやいやいや!キャラになりきるロールプレイするのは勝手だけれど、森のすぐ近くで言うには台詞がおかしくない!?

 確か湧水が湧いている場所もあれば、野兎っぽいのとか食料になる魔物モンスターもたくさんいたはずだけど!?


「種もみ寄こせー!」

「誰も持ってねえよ!」


 はっ!思わず逃げる足を止めて突っ込んでしまった。


「作戦通り!死ねやおらあ!!」


 嘘だ!絶対偶然だったくせに!と叫びたくなったが、実際に止まってしまったオレは何も言い返せなかった。

 それにしても口が悪い連中だ。もう少し丁寧に話せないものかね?

 例えば「お死にになさって下さいませ!」とか。


 …………。


「余計に腹立つわ!!」

「がらぺ!」


 想像してみたら結構イラッときたので、セルフ突っ込み的に怒鳴ったら魔力が漏れ出ていたようで衝撃波が発生。

 攻撃しようと突っ込んできていたヒャッハ―さんその一が巻き込まれて吹き飛んでいく。


「へぶち!」

「あんごるもあ!」


 で、落下地点にいたその二、その三にぶつかり、揃ってノックアウト。同時にHPもなくなったのか消えていった。

 いや待て今おかしな悲鳴が混ざっていなかったか?

 あ、それとレベルが上がってる。


「なっ!?お前何しやがった!?」


 それはこちらが聞きたい。

 どうもこの魔王という職業には隠しスキルがこれでもか!というほど盛り込まれているみたいだ。


「チッ!低レベルの新人かと思ったら、変装持ちの上級者か」


 残ったヒャッハ―さんその四が、それまでとは違った真面目で危険な雰囲気を醸し出し始めた。

 こいつらはもしかして、古都を中心に活動している人たちの間で話題になっていた――『冒険者協会』に併設されている酒場で話しているのが聞こえた――『新人いじめ』をしている奴らか?


 『新人いじめ』とは文字通りプレイを開始したばかりの新規プレイヤーに対して難癖を付けたり、問答無用で襲いかかったりしている連中のことだ。

 『PK参加表明』をオフにしているプレイヤーには攻撃を当てることはできない。しかし攻撃モーションをすることはできる。


 さて、想像してみて欲しい。

 いきなり見ず知らずの人――人外の容姿をしている場合もあるけど――に襲われる瞬間を。

 いくら当てられることがないと分かっていても、かなりの恐怖だ。『新人いじめ』の連中はそうしたゲームシステムの隙を突いた形で、心へのダメージを与えていくのだ。

 実際、それがトラウマになって『アイなき世界』のプレイを止めてしまった新人たちも出てきているそうだ。


「あんたら『新人いじめ』か?」

「そういうお前はPKKかよ」


 否定しないということは当たりか?どうするかな、と悩んでいると、


〈レベルが規定値に達しました。上位職へのクラスチェンジが行えます〉


 インフォさん、空気読んでくれませんかね!

 ポーンと軽い音と共に視界の端に現れたインフォメーションに心の中で突っ込んでしまった。

 シリアスっぽい雰囲気が台無しだよ!


 ……もういい。考えるのが面倒だ。


「少しは反省しろ」


 それだけ告げると、オレは『火球』の魔法でヒャッハ―さんその四が何か言う前に焼きつくしたのだった。


〈経験値を取得しましたが、クラスチェンジが行われていないため、加算は一時保留となります〉


 ほほう。すぐにクラスチェンジできなかった時でも経験値は無駄にならないのか。ここの運営さんにしては珍しい親切設計だな。

 魔王の上級職というのも気になるけど、その前にやることやっておかないとな。さっきの戦闘ログを確認して、襲ってきた『新人いじめ』の連中のプレイヤー名などを運営に報告しておく。


 よし、後の面倒なことは運営に丸投げするとして、お楽しみのクラスチェンジだ!


 インフォに従って操作をしていくと、おお!なんと三つも選択肢があるみたいだ……ぞ……?


 スーパー魔王と、グレート魔王と、ハイパー魔王……。


 うん、知ってた。ここの運営だからきっとこんなことじゃないかって心のどこかでは分かっていたんだ……。ちくせう。

 それで、どこがどう違うんだ?


〈スーパー魔王、魔王を超えたスーパーな魔王。

 魔王らしく魔力の伸びが高い。火水風土の基本四属性だけでなく、光・闇・雷の上位三属性をも扱う恐ろしい存在。店舗ではない〉

〈グレート魔王、魔王を超えたグレートな魔王。

 魔王なのに筋力の伸びが高い。全ての武器防具を装備する事ができ、全ての技を使いこなす恐ろしい存在。シリアルも教師も関係ない〉

〈ハイパー魔王、魔王を超えたハイパーな魔王。

 魔王だけど敏捷の伸びが高い。特殊な技を習得可能であること以外は謎に包まれている恐ろしい存在。魚雷で先制攻撃はできない〉


 ねえ、運営――某アニメソングのような感じで言うと吉――?真面目にやる気ある?

 なんだよそれぞれの最後の一言!?ド、ドレモナンノコトナノカ、サッパリワカラナイヨ?


 まあ、小ネタはこの際置いておくとして、スーパー魔王は魔法職で、グレート魔王は戦士職だな。残るハイパー魔王は敏捷重視ということだからシーフやアサシン系ということか?

 ううむ、ガチンコの肉弾戦は苦手だからグレート魔王はないな。

 仕事人的なプレイスタイルに憧れなくもないけれど、全然違う方向に進む可能性もあり得る。ハイパー魔王を選ぶには情報が不足し過ぎだな。


 うん、結局今までのステータスをそのまま活かせるスーパー魔王にするのが安全そうだ。

 説明文的にも通常進化っぽい感じだし。

 そんな訳で、オレはスーパー魔王へとクラスチェンジを果たしたのだった。


 それから数日後、呆気なくレベル五十に達したオレは、スーパーグレート魔王かスーパーハイパー魔王のどちらにクラスチェンジするかで頭を悩ませることになるのだが、それはまた別のお話。






◇ 裏話 ◇


『新人いじめ』の連中は、別のゲーム会社に依頼されて嫌がらせを行うプロ集団、という裏設定があったのですが、ほとんどただのヒャッハーな人になってしまいました……。


まあ、微妙に真面目な話になってしまうことが続いたので、これはこれでアリ!ということで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る