第12話 上位職には夢がある
目が覚めると、見慣れない天井が目に入ってきた。
「ああ、そういうこと」
昨日は数日ぶりのログインで、しかも週末ということもあって気合を入れてレベルアップに励んでいたのだけれど、少しやり過ぎてしまったみたい。
ほとんど無意識の状態で
「うわ!?」
そして宿代のところを見て驚く。いつも使っている宿の約三倍もしている。
再び
「ぷきゅー」
「ふごふご」
ベッドの下から何やら鳴き声が。
覗きこんでみると、そこにはボクのテイムモンスターで友達でもあるウリボウのイーノとニーノがいた。
なるほど。
いつもの宿はテイマー御用達でテイムモンスターはほぼ無料で泊まれていたのだけれど、こちらの宿はそうはいかなかった訳ね。きっちり三人分の宿代を支払わされたっていうことか。
予定外の出費にログイン早々ガックリきちゃったヨ……。次からは気を付けよう。
さて、いつまでも落ち込んでいても仕方がない!
こういう時は美味しいご飯で気分転換!
「イーノ、ニーノ、行くよ」
呼びかけるとすぐさま近寄ってきた二匹の頭を撫でてから、それぞれボクの頭の上と背負い袋の中という定位置に
受付前を通る時に「ご利用ありがとうございました。お気を付けて」と丁寧に挨拶してくれる。金額はともかく――それとも相応なのかな?――感じのいい宿だったみたいだ。
ボクは「ありがとう」と返して外に出た。今日もいい天気だ。
「それじゃあ何を食べようかな?」
ボクの独り言に「んご」「ぷきゅー」と二匹が相槌を打つ。
うん。よく分からない!
まあ二匹とも食べたいものがあったら騒ぎだすから、まずは屋台通りにでもいってみようかな。そこでダメなら、いつもの宿の食堂ということで。
それでは出発!
「な、なんか異様に疲れた……」
一時間後、ボクたちはいつものテイマー御用達の宿である『聞き耳のウサギ亭』の食堂でぐったりしていた。
「ぷき……」
「きゅー……」
二匹とも疲れているだろうに、ボクのことを心配そうに見ている。
「ああ、パトラ○シ○、ボクはもう疲れたよ……」
「こらこら、危険なネタを口走らない」
二匹をモフモフしながら、こういう時の決め台詞を口するボクに突っ込みが入る。
うにゅー、と声のした方を見ると、そこには先輩テイマーの『みなみちゃん』さんがいた。ちなみに『ちゃん』までが名前で、テイムモンスターはハンタードッグの『かっちゃん』とエイプファイターの『たっちゃん』他多数。
「大変だったみたいね。掲示板が凄いことになっていたわよ。『うり坊兄弟と一緒にスクショ撮らせてもらった!』って」
「ボク、女の子なんですけど……」
あの後、屋台通りに着くと、なぜか「
スクショ大会の合間に聞いた話によると、二匹と常に一緒にいたボクは知らない間にプレイヤーの間で有名になっていたそうだ。
それはまあ一応良しとして、問題はそのあだ名というかニックネームというか二つ名というか、とにかくそちらの方!
『うり坊』ってなによ!?
確かに一人称は『ボク』で通しているけれど、こっちでもリアルでも、れっきとした女の子だよ!
ちなみにイーノたちの性別は……、よく分からなかったりします。
そんな訳で、ご飯も食べられないまま他のプレイヤーたちからもみくちゃにされたボクたちは、疲れ果ててここでへばっているのだった。
「リュカリュカちゃん定食お待たせ。イノちゃんと二ノちゃんはこっちね」
そこにようやく注文していた定食がやってくる。
「フミカさんありがとー。って、この子たちの分は頼んでないよ?」
皆で分けようと思って大盛りにしてもらっていたはずなんだけど?
「こっちは私の奢り。リュカリュカちゃんもしっかり食べないと大きくなれないよ」
どことは言わないけれど、たゆんと揺らしながら笑う、ウエイトレスのフミカさん。そらした視線の先にあったみなみちゃんさんのそれはテーブルの上にどかっと乗っていた。
「ボクだってちゃんとあるもん……。あ、食べていいよ」
謎の敗北感に苛まれながら定食に手を付ける。
そんなボクのことを気にすることなく、許可をもらった二匹はごちそうに頭から突っ込んでいく。
ちなみにボクだってちゃんとある。シーはあるんだから!
「そう言えばリュカリュカは、上位職を何にするか決めているの?」
突然、みなみちゃんさんが尋ねてくる。
フミカさんは二匹が食べる様を堪能した後「ごゆっくりー」と言って厨房のある奥の方へと入ってしまっていた。
「ふえ?まだですけど?」
昨日ようやく五レベルまで上がって、三匹目がテイムできるようになったばかりだ。
上位職へのクラスチェンジは最低二十レベル必要だから、まだまだ遠い先の話だと思っていたのだけれど?
「そろそろ新しい子をテイムできるようになっているでしょう?これからは上位職をどうするかも考えておく方がいいわよ」
なんでも上位職はいくつか種類があって、微妙に性格が異なっているのだそうだ。テイマーの場合、育成できるテイムモンスターに制限がかかったりするらしい。
「だから考えるのが面倒、という人はハイテイマーにしているみたいよ。後、多いのはビーストテイマーね。やっぱりモフモフ好きは多いわ」
私も含めてね、と言ってみなみちゃんさんはステキな顔で笑う。
……はっ!あぶないあぶない。危うく惚れてしまうところだったわ。
うーん、それにしても上位職かあ……。
話を聞く限りハイテイマーというのが通常進化っぽい感じだね。それでビーストテイマーとかが制限ボーナス付きの個別進化ということかな。
これは後で外部のまとめサイトを確認しておく方が良さげかな。
新しい子をテイムするのも、調べて済むまで保留すべきかも?
そんなことを考えつつも、食事を終える。
みなみちゃんさんに断りを入れて外部リンクしてみると
「多くない?」
あるわ、あるわ。ビーストテイマーと同じ個別進化だけでも他にフライマイスターやカムヒアリザードなどなど。
変わり種ではサモナーにも同じ名前がある通称ネクロテイマーのネクロマンサーや、通称ゴーレムテイマーのゴーレムマスターなんてものもあったりする。
「しかもまだ特殊なエクストラジョブが隠されているっていう噂もあるわ」
「はあ?」
この上まだ特殊な上級職とか、どう考えてもやり過ぎよ。
きっと運営さんたちは徹夜明けのハイテンションで会議をして、それで出た案を全部突っ込んじゃったんだと思われます。
とりあえず今のところは
「どんな子をテイムしたくなるか分からないから、ハイテイマー狙いでいきます。もし、モフモフばっかりになったらビーストテイマーもあり、くらいのつもりで」
としか言いようがないわ、これ。
「イーノちゃんとニーノちゃんがいるから、その流れが妥当でしょうね」
そう言いながらみなみちゃんさんはニーノと遊び始めている。
その後、ボクたちはフミカさんも一緒になって二匹を愛でながらまったりとした時間を過ごしていった。
◇ 補足 ◇
今回の騒ぎでリュカリュカが女の子だと知れ渡り、ニックネームは『ウリ坊ちゃん』になりました。
『みなみちゃん』とテイムモンスターは遊びすぎたか!?
修正が入ったら、「やっちまったな」または「無茶しやがって……」と呟いて下さいませ。
それと、どこかで聞いたことのある名前の人が出てきますが、あの人と同一人物かどうかは秘密です。
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