第6話 魔王だけどスタート地点の街でコソコソしています
皆さんこんにちは。運営の陰謀によって『アイなき世界』で魔王にされてしまったグドラクです。
驚愕のキャラメイクから一週間経ち、やっと落ち着いてきた今日この頃です。
まあ、世間一般様はまだまだ混乱しているようですが……。
さて、あれから一週間。オレは未だにスタート地点の街に居た。
ゲームを開始したプレイヤーは全て『始まりの地』と呼ばれる古都ナウキに集められる。
魔王であるオレも例外ではない。
ナウキのあるラジア大洞掘――いわゆる大陸だ――には『アイなき世界』で最大の国家であるモーン帝国があり、大洞掘内のほとんどの場所を支配している。
そしてモーン帝国は最初にして現在唯一魔王討伐に名乗りを上げた国でもある。
つまり、敵地ど真ん中からのスタートだった。
思わず、アホか!と叫びたくなったのを堪えた自分を誉めてやりたい。
そして変装や偽装といった隠密系の技能を取っておいて良かった。お陰で開始早々プレイヤーやNPCに囲まれて袋叩き、という事態は避けられた。
ちなみに実装されているもう一つの大洞窟であるロピア大洞窟は多くの国家が乱立しているが、それ以上に『神殿』が大きな権力を持っているそうだ。
後、一応実装はされているという噂のサウノーリカ大洞窟は、地上からやって来た『ミュータント』によって占拠されている状態らしい。
ゲームに関する一切の情報が得られないオレがどうしてそんなことを知っているのかというと、ナウキにある大図書館で調べたからだ。
まさかゲーム内で図書館に入り浸ることになるとは思わなかった。
それと、どうやらこの古都(ナウキ)には初心者用のチュートリアルやワールドガイダンスが至る所に設置されているみたいだ。
大通りや表通りを歩くのが怖くて裏道を使っていたら、色々な小イベントに巻き込まれた。
今、目の前で起きているこれもその一つらしい。
「だから兄ちゃん、おれを冒険者協会にまで連れて行ってくれよ!」
五歳くらいの男の子がぶんぶんと腕を振りながらそんなことを言っている。
プレイヤーであれば冒険者協会には最低一度は足を運んでいる。なにせナウキにある『冒険者協会』で冒険者登録することがプレイを開始して最初の強制イベントだったからだ。
だから場所は分かる。問題ない。
しかしどうしてこのイベントが起きたのかが分からない。
この道は昨日も、というかほぼ毎日通っていたのだ。
「もしかして冒険者協会にプレイヤーを誘導するためか?」
考えてみれば登録をしてから一度も行っていない。
ついでに言えば街の外にも出ていないし、戦闘もしていない。
なぜならステータス画面で『プレイヤー同士の攻撃判定有無の設定』と『PK参加表明』に『PvP参加表明』が強制的にオンになっていたからだ。
いきなり見ず知らずのプレイヤーに
だけどいつまでもそうは言ってはいられないみたいだ。
普通なら空中に現れる〈
つまりこれは強制イベントだということだ。
オレは諦めて
「いいぜ。でも冒険者になるのは大変だし、冒険者になってからはもっと大変だぞ。覚悟はできているんだろうな!?」
と、ロールプレイを楽しむことにしたのだった。
「あっと、ごめんなさい」
「いや、こっちこそ」
男の子を連れて冒険者協会に入ろうとした所で出てきた女の子とぶつかりそうになってしまった。
「怪我はない?」
「ああ。だいじょうぶ、だ……?」
オレの台詞が途中で止まる。相手の子が可愛かったのもあるが、それ以上にその子の頭の上に、
「ウリボウ?」
が乗っていたからだ。
「あ、ボクはテイマーなんだ。この子たちはボクが初めてテイムした子でイーノ。こっちの子がニーノっていうの」
と、彼女は背中を見せる。
そこには背負い袋から頭だけを出したウリボウ二号がいた。
か、かわええ。
「おーい!リュカリュカー!」
「あ、いけない!それじゃあボクはこれで!」
ウリボウたちに見惚れていると、知り合いに呼ばれたのか彼女はそう言い残して去って行ってしまった。
ウリボウたち、可愛かったな。
頭のどこかで「オレ、今度キャラメイクする時はテイマーになるんだ……」という謎の声がしたような気がする。
うん、魔王を辞められるのがいつになるか分からないけれど、夢を見るくらいはしてもいいよな……。
「兄ちゃん、そろそろ中に入ろうぜ」
そんな俺を現実――ゲームだけどな――に引き戻す非情な声。
確かに入口の扉の前にいつまでも突っ立っていると危ないしな!
男の子に軽くデコピンをくらわせて「あ痛(いた)!」から冒険者協会の中へと入って行く。
そこは一週間前に訪れた時と変わらず雑然としていた。
併設された酒場ではまだ外が明るいにもかかわらず酒を飲む人で溢れ返っている。
「あ、そういえばここでは一日中ずっと明るいんだったか」
毎日数時間しかログインしていないのですっかり忘れていたな。
『アイなき世界』はアンダージアース、つまり地下世界が舞台だ。
文明が崩壊した時にシェルターへ逃げ込んだ人たちが周囲を掘ったり、洞窟同士を繋げたりして造っていったのが大洞掘だとされている。
同時に暮らしていくため、植物を育てるために明かりとなるものを開発した。
それが大洞掘上部で常に薄ぼんやりと輝いている『光雲』とか『ライトクラウド』と呼ばれているものである。
そのため一日中ずっと明るいのだ。
まあ、ゲーム的には昼夜を作ってしまうと、特定時間しかログインできない人たちから苦情が出る、といったところだと思う。
ちなみに一応雲なので、雨も降る。どういう原理なのか、雨は光ってはいないけどね。
さて、男の子を連れて来たものの、これからどうすればいいんだろう?
「あ、グドラクさん!」
などと悩んでいると、いきなり名前を呼ばれて協会の職員の一人が近寄って来た。
嫌な予感がする。
というか嫌な予感しかしない。
これはもはや予感というか未来視の一種なのではないだろうか。
「丁度良かった!人手が足りないので手伝って下さい!」
職員の人が言い終わるのと同時に、
〈緊急イベントが発生しました〉
ウインドウが展開する。
いや、まあそれはいいんだけど。
(ゲーム的に仕方がないのかもしれないけれど、あれだけ酒場で飲んでいる人たちがいるのに、人手が足りないってどういうことだよ!)
と、オレは一人心の中で突っ込むのだった。
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