恋わずらいもほどほどに
退屈が
「はあ……」
「どうしたんだい、アスモデウス? さっきからため息ばかりついて。ひょっとしてあれか?
「いや、アスタロトよ、実はそうなのだ。だからわたしは、このようにずっとわずらっているのだよ」
「君は確か、ああ、そうだ。サラとかいう娘に
猊下はハヤブサの
「サラか、サラはとうの昔に死んだ。人間の寿命とは短いものだからな。まったく、いまいましい
アスモデウス公がテェブルに
しかし猊下はいっこうに
「
「わかっている、わかっているのだ、アスタロトよ。だが、はあ……まったく、おそろしいことがあるものだ……」
アスモデウス公はまた顔を
そのうなだれるオールバックの分け目を見つめ、猊下も聞こえないようにため息をつかれたのです。
「君のそんな
「そうは言ってもな、はあ……」
腕の中に頭をうずめるアスモデウス公をちらりとのぞき込んで、猊下はずいぶんあきれた顔をなさいました。
組んだ手の上にあごを乗せ、退屈しのぎに部屋の
「ああ、まったく。あそこで間抜けなダンスを
「あれがサラだ」
「はあ?」
「おそろしい
「……」
アスモデウス公はお顔を両腕にうずめたまま、動かなくなってしまわれました。
猊下はあごが落っこちてしまいそうなくらい、長い長いあくびをなさっています。
「はーあ。われわれ
「言ってくれるな、アスタロトよ。すべては恋の成せる魔の
アスモデウス公はシィソォのようにお顔を腕にぬぐっております。
「ふぁ~あ。くだらん、実にくだらん」
「まあまあ、猊下。アスモデウス公は七つの
「ダミエル、君はやさしいね。こんなへたれのことをかばってさ」
「へたれか、そうかもしれん。だが、こればかりはな、はあ……」
アスモデウス公は上げかけたお顔を、また腕の中にしまわれてしまいました。
「アスモデウス公はかつて、あちらのサラさんに近づく
「ああ、ダミエル、わかってくれるかい? 正直わたしは、自分のおこないが間違っているのではないかと、
「もったいないお言葉でございます、アスモデウス公」
「ふん、わたしにはミイラ取りがミイラになっているだけにしか見えんがね」
「ダミエルと違って君は冷たいね、アスタロト。君の心には愛がない。もっと愛を勉強したまえ」
「はあっ、何を抜かすかと思えば! やれ恋だの愛だのと、実にくだらないな、アスモデウス!」
「まあまあ猊下、そのような心づもりでは、その、もてませんよ?」
「サルガタナス、貴様まで……」
「ひぃっ、猊下、言葉がすぎました!
「まったくどいつもこいつも。くだらん、帰る!」
「ああ、猊下! お待ちください」
猊下はお体にくくりつけてある装飾品をガチャガチャと鳴らしながら、
サルガタナス
「ああ、不愉快だ。何が恋だ、何が愛だ。そんなものは、ハエのクソにも
「猊下は
カシャンと、猊下は足を止められました。
「どういう意味だ、サルガタナス?」
「ひぃっ! これは重ねて失礼を!」
猊下は
「は~あ。恋だとか愛だとか、そんな
「は、どういうことでございますか、猊下?」
「なんでもない。そして、どうでもいい」
「はあ……」
廊下の窓から見える
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