胃袋が破れないように
「猊下、少し食べすぎではございませんか? それ以上はお体に
フーガスをお
「うるさいなあ、サルガタナス。わたしはいま、気分がよいのだ。好きなだけ食べさせなさい」
猊下は意に
「ああ、猊下、ジャムがお口に。天国の果実をいただきすぎては、おなかが下りますよ」
「君はあれか、人間の言葉でいう
「め、めっそうもない! わたしはただ、猊下の胃袋が破れないかと心配で……」
「心配性だなサルガタナス。いつから君は、わたしの花嫁になったんだい?」
「ご
伯爵はひどくお困りのご様子です。
白い手袋が空中でせわしなく
ブゥツのソウルもかたかたと音を立てつづけているのです。
「猊下、伯爵は猊下のことが心配でならないのでしょう。どうか
「君はやさしいねダミエル、こんなやつのことを気づかってさ。まったく、つきあいが長いからといって、調子に乗るものではないぞ?」
猊下はつり上げた
「そのような猊下、わたしはただ……」
「わかった、もうよい。わかったから、サルガタナス」
「はあ……」
伯爵はすっかり肩を落としてしまわれました。
「伯爵はずっと、猊下におつかえでございますものね」
「そうだよダミエル、わたしはこの存在を得た瞬間から、猊下のそばにはべり、おつかえしているのだ。猊下につきしたがうことこそがわたしの喜びであり、唯一の生きがいなのだよ。猊下のおんためならば、わたしはこんな命など喜んでなげうつ心づもりなのだ。だからわたしは、たかだかフーガスを一枚余分にお召しになったくらいで、猊下がおなかを下すという屈辱きまわる仕打ちを味わうなど、心苦しくてしかたがないのだよ」
とくとくと語る伯爵に、猊下はいらだっているご様子です。
「いいかげんにしなさい、サルガタナス。まったく、これではせっかくの食事がまずくなるではないか。だいたい君は昔から説教くさくていかん。わたしは靴もろくにはけない子どもではないのだよ」
猊下は刺さった果実ごと、銀のナイフをかじっていらっしゃいます。
「まあまあ、猊下。伯爵の忠義こそ、わが軍の規範たるべきものでしょう。僕としても、見習ってしかるべきでございます」
「わかってくれるかい、ダミエル」
「ああ、あほらしい……」
目から
「かつて超越者との戦いのおり、天の
「いやいや、ダミエル。そんな昔のことを持ち出さないでおくれ。
猊下はカシャンと、フォークで銀の皿をつつきました。
「そういえば、君はあの
「いえいえ猊下。それは猊下におつかえする身として、当たり前のことでございますれば……」
「当たり前、当たり前ね。その当たり前とやらで、あそこまでできるとは思わないがな」
「
猊下はフンと鼻息をついて、また食事を口に運びはじめました。
「
「は、なんでございましょう、猊下?」
「なんでもない、なんでもな」
伯爵は気づいていらっしゃらないようでしたが、その口もとが確かにほころんでいらっしゃるの拝見したので、僕はやっと安心したのです。
降り注ぐ流星の光にそのお顔をあばかれないよう、猊下はずっと、食事をとりつづけていたのでございます。
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