地獄のゆりかご
朽木桜斎
ゆりかごに流星の降り注ぐ
何かをお考えのようですが、その目はステュクス
金銀財宝をあしらった
浅黒い肌は沈まない夕日を映し出して、
カシャンと、エボニィの
「ダミエル、ちょっとこっちへおいで。退屈だから何かお話をしよう」
首をかしげてそうおっしゃったのでございます。
お顔がずいぶんとやさしいですから、きっといまはご機嫌がよろしいのでしょう。
「はい、猊下」
僕がおそばに寄りますと、猊下はそっと手を差し出して、すりすりと頭を
「さあ、こちらへ座って」
エデンに生えていた
「ふふっ」
僕が隣の
「ねえ、ダミエル、あそこの空をご覧。たくさんの
「地獄に落ちた人間たちでしょうか?」
僕がそう答えると、猊下はクスクスと笑って、手の
「そうだね、
「裁かれる人間たちのなんと多いことでしょうね」
「ふむ。人間どもときたら、土くれから作られた
「なぜ人間は、みずからの手でみずからの存在を
「うむ、いい質問だね、ダミエル。人間というのはね、自分の近くにあるものほどよく見えないのだ。まなざしがくもっているのだね。逆にみずからの存在から遠いものほどよく映る。だから
「人間とはずいぶん、忘れっぽい生き物なのですね」
「ふむ、そうだ。やつらはすぐに忘れる。みずからが作られた存在であることも忘れ、むしろ作ろうとするのだ。なんという
「なんというか、猊下のおっしゃるとおり分不相応、とてもあわれに映ります。われわれよりもよほど、罪深い存在ではありませんか」
「ははっ、よく言ったぞダミエル、そのとおりだ。人間どもが悪魔と呼ぶわれらよりよほどあれで罪深い、やつらという存在は。いと高き者が生み出したものの中で、およそ最低、最悪の存在だよ、人間は」
「なぜ超越者は人間を土に戻してしまわないのでしょうか?」
「認めたくないからだ。自身が失敗作を作ってしまったということを。やつは本来、最高傑作のつもりで人間を生み出しただけにね。だからあんなできそこないどもの存在を許している。しかしまあ、それではさすがにメンツが立たないから、苦しまぎれに寿命という概念を作ったがね」
「人間も滑稽ですが、いと高き者こそ正真正銘の道化に見えますね」
「ふふっ、ふははっ! ダミエル、最高だ! 君といると退屈しない! そうだ、そのとおりだ! やつこそ滑稽な道化だ! ひとりぼっちでダンスを踊っている、あわれなピエロなのだ! あはっ、ひひっ、ああ、おかしい……」
「猊下の憂さは晴れたご様子、なによりでございます」
「
「そのような猊下、おそれ多いことです」
「ははっ、いやいや。本当に君はよい子だねえ、ダミエル。ああ、たくさん笑ったら腹がすいてきた。君もおなかが減っているだろう? ニスロクを呼んで何か作らせよう。おっと、作るといっても、人間のようなできそこないではなくてね?」
「猊下のご表現は
「ほめすぎだよ、ダミエル。でも、うれしいよ。これ、サルガタナス。すまないがニスロクに食事の用意を頼む」
こうして猊下はご機嫌よくあそばし、組んだ足でテンポを取りはじめたのでございます。
遠くの空からはあいかわらず、
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