野球しかやってこなかったけど案外異世界でもやっていけます

星数卜ト

第一話 転生

8回裏の2アウトランナー2、3塁で代打に出された知次。今年から大学生となった知次は高校の時に活躍し、野球の推薦で入学した。一年生ながらメンバーに選ばれた知次は春季リーグの優勝が決まる試合で代打として出場している。

(絶対に打つ!)

試合は3ー3の同点でここでヒットを打てれば一気に勝ちに近づく場面だ。カウント1ボール1ストライクで迎えた3球目。ピッチャーの放ったボールは抜け、知次の頭に向かっている。

(まずい、打ちに行ってしまったから避けきれない!)

知次の頭に一直線に向かっていったボールは不幸にもヘルメットではなくこめかみ辺りに当たってしまった。

目が覚めると見知らぬ天井があった。

(ああ、あの後病院にでも運ばれたのかな。試合はどうなったんだろう。)

「おお、やっと起きたか」

声のする方を向いてみると見知らぬ男がいた。状況が理解できなかった知次は逃げようとしたが頭痛がして諦めた。

「あの、すみませんここはどこですか?」

「ここはマルタニア王国だよ。お前さんが森の中で倒れてたもんだから心配したよ。」

「保護してくれたんですか、ありがとうございます。」

(マルタニア王国なんて聞いたことがないぞ。俺が勉強してなくて知らないだけか?)

「マルタニア王国ってヨーロッパの国ですか?」

「ヨーロパ?なんだそれ、そんなものは聞いたことないぞ?」

(ヨーロッパって言えてないけど...)

「そうだ。まだ名前を聞いていませんでした。俺の名前は知次って言います。」

「トモチュグっていうのか」

「知次です」

「トモチュグだろ?わかってるって」

(言えてないけど...)

「はぁ、トモでいいですよ。」

「?まぁいいけどよ。俺の名前はサイノンだ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

「お!街が見えてきたぞ!あれがマルタニア王国の首都、キッドだ」

「壁で囲まれてるんですね」

「ん?お前しらねぇってことはど田舎から出てきんだな。魔物から街を守るためだよ。人間だって好き好んで魔物を殺す奴なんていないからな。関わらないようにするための壁なのさ。」

「そうだってんですね。」

自分たちが嫌いならまず関わらないようにする。もしかしたらもといた世界より争いは起きにくいのかもしれない。そう考えれば平和だ。

「うわっ!」

突然風が吹いたことによりサイノンのかぶっていた帽子が飛んでいき、近くの木に引っかかってしまった。

「マジか!あんな細い枝に引っ掛かったら登ってとれねぇじゃねーか!」

「すみませんちょっいいですか?」

俺は近くにあった石を持っていった。

「いいけどどうすんだ?登っても折れちまうぞ?」

「見ててください」

俺は石を投げて見事に帽子に当て帽子を取ることができた。

「うおっ!あんたスゲェな!」

今のってそんなにすごいのか?コントロールには昔から自信があったけど何回か投げれば当たるもんじゃないのか?

「石で落とすなんてなかなか思いつかないぞ!いいもん見させてもらったぜ!」

この世界には物を投げるという概念が根付いていないのかもしれない。投げるって結構便利なんだけどなぁ。

「いえいえ僕も助けてもらったからお互い様です。」

「そういうことならいいけどよ。ありがとな」

サイノンはそう言いながらも終始興奮していた。

「着いたぞ。ここがマルタニア王国の首都のキッドだ。」

検問所のようなところを通りいよいよ街に着いた。ここで俺の平和な異世界生活が始まった。

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野球しかやってこなかったけど案外異世界でもやっていけます 星数卜ト @hoshikazu

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