第8話

魔力の訓練は通常よりもなかなかスパルタだったが、商団は三週間しか村に滞在しないためルーズも承知の上で行われた。

無理のないギリギリを見極めながらも魔力のスイッチを強制的に入れさせ放出したのち上から押さえ込むように閉じさせてオンオフを体感させ、使い方を叩き込んだ。


お互い必要以上に疲労する訓練に、三日後には双方とも『二度とやらない』と心に誓った。


一週間つきっきりで相手をしてくれた魔法士は村では誰も知らない魔法の知識を沢山教えてくれていた。

その知識が、大人になっても助けられている。

短い間だったがルーズは、彼のことを恩人で師匠だと思っている。


彼らが村から去るときは、泣き喚いてちょっぴり辺りを暗くしてしまったが、商団のみんなは珍しいものが見れたと笑ってくれた。


商団長さんはお礼にと、魔法に関する本を二冊プレゼントしてくれてルーズは益々泣く羽目になってしまったのもいい思い出だ。


別れは辛かったが、またなと言ってくれたのでいつか会う時には魔力をコントロールし暗闇を自在に操り見せてあげるという目標ができた。


いつかまたみんなに会ったときに笑われないように、あの本のおかげでこんなに立派になったよ、と伝えられるように。




ルーズは師匠がいなくなっても教わったことを繰り返しながらコントロールをさらに磨き、専門書を読み解き知識を蓄えていった。

たった1人で教えてくれる人がいない中、もらった本を懸命に何度も読み返し、魔法を自分の力へと変えたリーズ。




成人である18歳になるころには体内の魔法の器を安定させ、細やかなコントロールまでできるように成長した。


結果、競争率10倍以上の魔商ギルドの就職試験に見事合格することが出来た。配属先は村から一番近い街リーベのギルド支部。


魔力量最良、コントロール技術問題なし、知識テストは独学だったために偏った知識だったがなんとか合格判定を受けルーズも家族も村中で喜んだ。

努力が身を結んだのだ。




魔商ギルドは、国が運営する魔法に関する全般幅広く対応するための組織だ。

魔法が生活に根付いているため、ちょっとしたことから大事まで様々なことを担っている。


街に必ず1魔商ギルド。

というのがこの国の一般的な造りになっていて、小さな街ではルーズのような平民が働くが、国王が暮らす中央都市に近ければ近いほど貴族が多く働いている。


リーベの街は貴族が住んでおらずのんびりとしたところだった。ギルド内の雰囲気は村に少し似ていて働きやすく、すぐに馴染めた。

ルーズの仕事は、コントロールの繊細さを買われ魔法具に関する困りごとの対処などだった。


少ない魔力で作動する家庭内のものから、水車のような大きなものまで魔法具に合わせて適切な魔力量を流し不具合を探したり時には魔法で直したり。


最初はうまく出来ず大変なこともあったが次第に仕事に慣れると街の人たちとも交流が深まっていった。

日々、目の前の眩しさに心は満たされ、さらに国営だけあり懐もぽっかぽかだった。


頑張った甲斐があったわぁ


毎月給金を貰う日にルーズは、あの辛かった三日間の訓練が報われるジャラジャラと音を鳴らす重みに頬擦りするのが決まりになっていた。


朝、街に行く乗り合い馬車に乗り職場に向かい、夕方村に帰る馬車にガタゴト揺られ家まで帰れば、家族と母の美味しいご飯が待っていた。


仕事も順調、家族もルーズがお金を稼ぐおかげでいつでも美味しい食材を買え食べ盛りの妹がお腹いっぱい食べるに困らなくなった。


ルーズも家族も幸せな毎日を過ごした。



2年ほどリーベの町で働いていたが、魔力量の多さから中央都市の魔法ギルド本部に移動を命じられた。


それが三ヶ月前のことだった。

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