第7話

ルーズが生まれた村には、山がたくさんあったので魔力暴走には困らないはずだったが、ひいひいお婆さんの家系の魔法はちょっと特殊だったようで土も抉らず木も倒さないが、辺りが真っ暗になった。


布切れを被せたように視界の一面を黒の世界に変えてしまう不思議な力だった。



ただ周囲が暗くなる。


それだけだったが、家の近くで魔力を爆発させると本当に何も見えなくなるので、びっくりされるし近所の子供があまりの怖さに泣き喚く。


直接的な危険はないため慣れてくると村の人たちは、あーまたルーズちゃんかあ、とのんびりと休憩して元に戻るのを待った。

だが運悪く包丁や斧などを使っている時や、縫い物をしている時に暗くなってしまって、軽度とはいえ怪我をした村人がいたこともあった。


皆んなしょうがないと言ってくれたが、ルーズはいつも優しい近所の人が自分のせいで傷ついてしまったことに動揺した。

ごめんなさいごめんなさい、とルーズは泣いて謝った。


誰もが、大丈夫だよ、と。ランプを買わなきゃねと笑っているような優しい人たちに囲まれてルーズが育ったのは幸せなことだった。


それからは家付近で爆発させないよう、魔力が体内に溜まりそうになると早め山に1人で行き、爆発させた。

真っ暗な中、魔力が消えるまでルーズは座り込んでじっと待つ。


最初は母も着いてきてくれていたが、ある程度子が大きくなると親が爆発に巻き込まれれないように1人で山に行かせるのが一般的なためルーズもそうしていた。




ルーズは一人山に行く時間がとても嫌いだった。

仕方ないと頭で分かっていても、怖かった。


暗くなると自分ですらも何も見えない。

その中いつ野生動物や何か別のものが来るかもしれない恐怖。

あと何回こんな暗闇を体験しなければいけないのか不安になりながら、ただじっと世界が明るくなるのをいつもただじっと待っていた。




転機が訪れたのは、ルーズが11歳になったころ隣国から来たという商団が魔法についての専門書を村に持ち込んだことだった。

ルーズは文字は読めるが難しい言葉は知らない。けれど、どうしてもその本が欲しくて父にねだった。


最初は、異国の雰囲気を持つ表紙に惹かれたのだと思う。気づいたらじっと目が離せなくなっていた。

内容を尋ねれば、魔法の本だと言う。魔法の原理や筆者が各地で聞いた希少な魔法について書かれているとのことだった。


本は安価になってきたというが、専門書となると貴重品であるため田舎の平民が一生をかけても買えるようなものではなかった。


だが幸運なことにこの専門書は特別な本だった。


頼まれて買い付けたはいいが、欲しい本ではなかったと返品されてしまったもので、手間賃込みで本の代金は払うから、必要な人に渡してくれと言われたそうだ。

金さえ払ってくれたら文句はないが、貴族は分からないことをすると言って商団長さんは笑っていた。


ルーズはその話を聞いて、特殊な魔法の使い道を知りたいのだと一生懸命に話した。本当はただ早く魔力を使いこなしたい、早く暗闇から解放されたいという想いが一番だったが、とにかく魔法の知識が欲しかった。


父親も暗くなる魔法か魔力が多い子どもが遺伝的にまた一族に出る可能性を考えて専門書を譲って欲しいと頼んでくれた。


ルーズは『見て!』とその場を暗くして見せた。商団長は誰にも見えない中、目を丸くした。


『これは……珍しい。

専門書を欲しいと言う人はこれまで誰もいなかったんだ。お嬢ちゃんこの本を大切にしてくれるかな?』


元気に『はい!』と返事をし、父は文字を読めるように一冊の辞書を買ってくれた。



  



ルーズは譲ってもらってすぐに辞書を引きながら、専門書を読み始めた。

どうしても理解できないことがあり困っていたら、商団が村にしばらく滞在するというので聞きに行ったところ、商団長さんから商団についている護衛魔法士を紹介された。


ひょろっとしてあまり愛想のない彼に慄きながら質問してみると、意外と子どもにも分かりやすく丁寧に教えてくれた。


それをきっかけに、見た目は近寄りがたいが、かなりいい人な魔法士にルーズは懐いた。専門書片手に暇そうな瞬間を狙い質問責めにしに行った。

あまりの頻度にうんざりしてそうだったが、根がいいのだろう嫌そうながらも教え方は変わらず丁寧だった。


基礎をしっかり学び、体の中にある魔力の形が分かるようになってきたころ魔法士はルーズの魔力のスイッチを見つけ出した。

そこから商団の滞在期限の関係で急足の三日で切り替えができるようにまで鍛えてくれたのだった。



これでやっと暗闇から解放されると、ルーズははしゃぎ回って転び、村の人や商団の人たちはその様子を楽しそうに笑った。

魔法士だけが目を細め満足げに頷いていた。

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