第5話
軽やかな気分で外に飛び出したルーズは、まず初めにギルドの隣にある配達所に直行した。
普段なら節約のため自力で運べる分は自分でどうにかするが、袋3つ分になった私物は持って帰れなくもないが頑張りたくはない。
今日くらいいいだろうと楽することを選んだ。
配達所は小さく壊れやすいものからどんなに大きなものでも指定の場所まで1日で運んでくれる便利屋さんだ。
受け取る時に不在でも魔法具を使って家の中に入れてくれるので大変ありがたい。
ちなみにリーベや村の配達所は人力で運び、配達受けに入れてくれる。
こういった街の規模により知っているものが違うことにルーズはようやく慣れ始めていたところだった。
荷物を配達所の職員に渡し手続きを終えると、面倒な課題を終わらせたような気分になった。
両手の重さがなくなり、気が抜けたように体がふらついた。
これはだめだ、と息を大きく吸い込み、ゆっくり吐き出す。
よし、大丈夫。
さっさと帰ろ!
気合を入れて歩き出す。
足取りは軽い。
時々人にぶつかりそうになりながら素早く避ける。
走るような速さの早歩きでまっすぐ自宅に向かう。
こんな早く動けるのね私、ニンジャみたい!
最近はあまり運動をしていなかったルーズは思ったより動ける自分にご機嫌な様子。
本人は東洋にいると言われているニンジャになった気分で歩いていたが、実際はうまく避けながら歩いているのではなく無表情でハイスピードで歩く女から、周りが避けている状態だ。
しばらくして、ルーズがいくらでも走れそうな謎の万能感に包まれていると、途中すれ違った人と目が合った。
綺麗に避けれたと思っていたら、目が合った。
すると、うわっと驚いたように飛び退かれた。
人の顔を見てなんだ、と内心イラついたが、もしや顔に何かついているのではないかと不安になる。
手で確かめると、冷たい感触があった。
あれ、なんだろ濡れてる…?
雨じゃないし何これ
立ち止まってから両手で確認すると、顔がびしゃびしゃに濡れていた。
手で拭いても顔はまた濡れた。
水が目から溢れ出ているのだと気づくのはそれからすぐだった。
泣いていると自覚すると、余計に涙が溢れ出した。
拭っても拭っても目から勝手に出てくる水分。
カバンに入っていたタオルを取り出し化粧も気にせず涙も鼻水も一緒くたに拭きあげると諦めて歩き出す。涙は一歩踏み出すたびに流れ落ちる。
あぁ気分はスッキリしたはずなのに。
多分今ひっどい顔してるんだろうな…笑っちゃうわ
おかしくて笑ってしまいそうだったのに口角は上がらないことに気づいた。
そのことがさらに心のささくれとなる。
視界がぼやけ乱暴に目を擦りながら歩き続ける。
何人もすれ違いざまに驚かれながら、ようやく家の近くの大きな川まで着いた。
川の上に掛かった長い橋を渡ったすぐ先にルーズの家はある。
早く帰りたい。
いつもの道のりが遠く感じる。早く帰りたいが、橋は急いで渡るとギッギッと今にも崩れてしまいそうな音がするため静かに渡るのがこの街の暗黙の了解になっていた。
音だけかもしれないが、見た目にも直ぐにでも崩れそうな橋で、流石に駆け出す勇気は出なかった。
ゆっくり歩けば嫌な音は出ず急がずに心を落ち着かせて歩く。
橋の中頃で、疲れ切ったルーズは良いことを思いついた。拭っても目から水が出るなら川に捨ててしまえばいいのではと閃いた。
何故そう思ったのかはわからないが、無駄に流すより川に流したかった。
橋の欄干から顔を出し下を覗くと緩やかな流れの川が、太陽を反射しキラキラと輝いていた。
目からぽたぽた溢して流してみた。川は変わらず綺麗なままキラキラしていた。
なんでこうなっちゃったかな…
ルーズは綺麗な川を増量させながら、大きくため息を吐いた。
日差しが強くなりキラキラが一層増したように見えた。
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