気狂いタイムトラベラー
澁澤弓治
俺はオリジナル
俺は4畳ほどの牢屋から、十字の窓を通し雲を眺めていた、じっと十字を見ていると、雲がゆっくり動いていることに気が付かされる。
俺の懲役は15年、しかし俺には関係がない、なぜなら俺はタイムトラベラーだからだ。
じっと見ていると雲が、人の形をなし、十字の枠が消えた。
人の形をなした雲は次第に禿げた精神科医となった。牢屋は広がり、精神科の診察室となった。
俺は精神科の先生と向き合った、簡単なことだ、俺が異常者だと思われているからだ。
完全に禿げた先生は理由を聞く、なぜ殺したのかと。
「俺は未来から来たからだ、詳しくは言えない」
「吉村君、未来からなぜ来たのかな」
「それも言えない、少なくとも俺が来た未来より先にならないと言えない」
「じゃあ質問をがらりと変えるけど、逮捕されるならなぜ未来に逃げなかったの?」
「タイムマシンがない時代に、タイムマシンを持ってくると、おかしなことになるからだ、それと俺の名前は吉村ではない」
「でも君には正真正銘、吉村周平という名前も戸籍もあるじゃないか」
そうして、俺の顔写真を見せつけた。
「俺の本名は明かせないが、吉村周平ではない」
俺の顔写真は次第に顔を変え立体になった、それは六十代ほどの男になった。
スマホ画面に映し出された、男の顔と細かい個人情報。
俺は再度自身の任務を確認する、俺はスマホを閉じた。
俺はニートに吉村の家から包丁を盗み、家を出た。既に暗く、人通りはない。
既に男の顔も住所も知っている。簡単な任務だ。
男の住む広い家に着くと俺は、窓を大胆に割り、ズカズカ進んで行った。
寝室で眠る男はスマホの画面と一緒、どうやら広い家に住むと、ガラスが割れても気づかないらしい。
包丁に体重を乗せ、突き刺す、何度も突き刺す。
男は死んだ、全身から血を流し、腹には包丁が刺さったままだ。
俺はその場から自然と逃げ出した、幸い夜で人は殆どいない、ガラス張りの車屋でふと自分を確認する、白いシャツは血まみれだった。
その血まみれの服を見ていると、車が一台近づく音がした、近づき、大きくなるエンジン音とカーステレオ、比例して俺の意識は遠き、何も見えなくなった。
やっと車が過ぎ去ったかと思うと視界は回復し俺は、吉村の実家にいることに気がついた。リビングだった。
手元の新聞には、六十代の男が立候補したと書かれていた。それはさっき俺が殺した男だ。
テレビでは、政治とは反対にトレンドを扱っていた。
テレビはcmとなり、画面は高速で不規則な色を出力した、出力速度はどんどんあがり、画面は膨張し、部屋を飲み込んだ、耐えかねて目を瞑る、うっすら目を開いた、見慣れたない天井、そうかタイムトラベルは成功したか。
枕元のスマホを確認する、5月17日 9:00やっぱり成功したらしい。
部屋を出、階下に向かい朝食をとる。
「いつまで寝てるのよ」
吉村周平の母だ、事前の情報通り。ネチネチ嫌味ごとを言われるのは書かれていなかったが。
タイムトラベルの精神の疲労で、急速に眠くなった、一瞬だけ寝ようそう思った。
目が覚めると、政治家や医者がいた。
政治家は、
「君のコピーは5月17日に行ってもらう」
医者は、
「心配はいらない、絶対に君のオリジナルには何の影響もない」
医者は俺にコードの大量に飛び出たVRゴーグルをつけた、VRには映像が浮かび出した。
映像はニュースだと分かった、ヘリコプターで国会議事堂の周りを飛んでいるのだ、国会議事堂は人の群に囲まれていた。
日本は今、暴走があちこち起き、警察は処理できないそうだ、自衛隊が出るとか、出ないとか、あまりに同じことしか言わないものだから、嫌になりVRゴーグルを外した。
VRゴーグルを外すと、4畳ほどの部屋だった、ここは牢屋だ。
十字の枠のついた窓を見る、白い雲は窓枠をじっと見ていると、動いていることがわかる。
気狂いタイムトラベラー 澁澤弓治 @SHIBUsawa512
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます