第17話 奇跡のモリニージョ
久々に神殿タイプの迷宮に行き当たった。
迷宮レベル:79
タイプ :神殿
こうしてみると迷宮は森と荒野タイプが圧倒的に多い。
次いで洞窟や墓地で、神殿タイポはレアだ。
でも、そはそれでありがたかったりもする。
神殿に来るとシュナの機嫌が悪くなるからだ。
シュナはとにかく神殿が嫌いらしい。
何があったかは知らないが、悪魔に利用されそうなくらい嫌っている。
もっとも、あいつほどの腕なら悪魔を屈服させて使役することだってできるかもしれない。
歴史を紐解けばそんな大王もいたそうだ。
その王様は七十二体の悪魔を使役して、様々な偉業を成し遂げたとか。
シュナでもできそうな気はするが、あいつの場合、偉業には程遠いか。
せいぜい悪魔に掃除や洗濯をやらせるくらいじゃないだろうか?
それに奴が使役するのは悪魔ではなくこの俺だ。
宿は廃業だと言っているのに掃除や洗濯は俺の仕事になっている。
何が悲しくてはした金でこき使われているのか?
「いいじゃない、こうして迷宮の探索を手伝っているんだから」
「暇つぶしについてきているだけじゃねえか……」
まあ、おかげで俺も話し相手に困らない。
シュナがいなかったら、もう少し孤独な砂漠暮らしだっただろう。
俺たちは精霊系のモンスターをなぎ倒し、神殿の奥でユニコーンと対峙した。
レベルは79だから、それなりにレアな魔物がでたようだ。
「ユニコーンって聖獣だろう? どうして魔物扱いなんだろう?」
「天使と同じよ。堕天使がいるのと同じように暗黒面に堕ちたユニコーンがいてもおかしくないでしょ?」
ダークサイドに堕ちた聖女見習いが何か言っている。
「気を付けなさい、ユニコーンの角はどんなものでも貫くわよ」
「知ってる。どうせシールドなんて持ってねえから関係ないけどな」
ユニコーンは俺たちを睨みながら近づいてきた。
目には凶暴な光をたたえ、鼻息も荒い。
「興奮しているなあ」
そういえばユニコーンは処女の乙女が好きだと聞いたことがある。
清らかで美しい娘を見ると魅了され、その膝に頭を乗せて眠ってしまうという伝承があるのだ。
「クソスケベだな」
「処女厨とかひくわよね」
俺たちの会話を理解したのか、ユニコーンはたてがみを振っていなないた。
「シュナ、ちょっとやってみろよ。そこに座ってユニコーンを寝かしつけてみ」
「え~、たしかに私は美しくて清らかな乙女だけどさぁ~……」
抵抗のそぶりを見せたが、シュナもまんざらではないようだ。
その場で横座りをしてシュナは怪しげな作り笑いを浮かべた。
「おいで……、こわくない」
いや、怖えよ!
俺は必死に笑いをこらえる。
「怯えることはないわ。さあ、こちらへ……」
だがユニコーンは地面にペッと唾を吐いてそっぽを向いてしまった。
聖獣のとてつもなく悪い態度に俺は吹き出してしまった。
だが、シュナは相当頭にきているようだ。
「控えめに言って、『眼中にないんだよ、ブス!』って感じだよな」
「ぶっ殺す!」
「まあまあ、魔物相手にムキになるなよ」
などと言っているとユニコーンが角をこちらに向けて突進してきた。
「ジンは手を出さないで。この駄馬に各の違いを教えてやるんだから!」
「ユニコーンは一角獣であって、馬じゃないんだぞ」
俺が披露した博物学の知識をシュナは無視した。
身をかがめて迎撃の姿勢を取っている。
こいつ、相当頭に来ているな。
得意の魔法は使わずに力でねじ伏せようしていやがる。
多少心配ではあるが、シュナは格闘さえもこなす闘う聖女様だ。
ここはどっしりと落ち着いて成り行きを見守ってみよう。
突進するユニコーン、身構えるシュナ、なかなかの大一番じゃないか。
「甘い!」
ユニコーンの角が自分の胸を貫こうとしたその瞬間、シュナは左前方にダッキングしてその攻撃を躱した。
そして同時に角の側面に拳を這わせながら渾身の右フックを繰り出す。
「クロスカウンターか!」
ユニコーンの眉間にシュナの拳が深々と突き刺さり、奴は角だけを残して消えてしまった。
「誰がブスじゃ、この駄馬がぁ!」
すまん、ブスと言ったのは俺だ。
ユニコーンはそっぽを向いただけなんだよな。
だが、ここは誤魔化しておこう。
「見る目のない駄馬だったな」
「あら、ユニコーンは馬じゃないわ。一角獣であり聖獣ですもの」
それ、さっき俺が言ったやつ……。
祭壇が現れユニコーンの石像も立っていたが、その顔はかなり不貞腐れていた。
駄馬扱いされてクロスカウンターまで決められれば腹も立つか。
だが、相手は無影のジンをこき使う大魔王だ。
運が悪かったと思って諦めてもらおう。
さて、今日のお宝は何だろう?
入っていた羊皮紙を読んだ。
「なになに……、ユニコーンの角は『グングニル』か『奇跡のモリニージョ』の素材になります、だとよ」
「グングニルってなに?」
「絶対に外れない投げ槍だとさ。しかも自動的に手元に戻ってくるそうだ」
「へー、じゃあモリニージョは?」
「ホットチョコレートを泡立てる道具のようだ」
「なにそれ?」
「本当にホットチョコレートを混ぜるだけの道具なんだと」
不意に前世の記憶がよみがえってきたぞ。
たしかメキシコにそういう名前の調理器具があった気がする。
「そのかわり、奇跡のモリニージョでかき混ぜたホットチョコレートはとんでもなく美味しくなるらしいぜ」
「私が混ぜても?」
「それはどうだろう……」
料理レベルマイナス24 vs ユニコーンの角を素材にした奇跡のモリニージョ。
今世紀最大のカードかもしれない……。
「どうするの? 槍、それともモリニージョ?」
「そんなもん決まっているだろう?」
「モリニージョ?」
「当たり前だ!」
カフェの店主に槍なんて必要ない。
そもそも俺は剣士なのだ。
どちらを選ぶと問われれば、ホットチョコレートを泡立てるためだけに存在する、おかしみ深い道具に決まっている。
祭壇には二種類の魔法陣が描かれていた。
ユニコーンの角を右の魔法陣に乗せればグングニルへ、左の魔法陣に乗せればモリニージョに変化すると書いてある。
間違えないようにシュナと確認しながら左の魔法陣にユニコーンの角を乗せた。
魔法陣が光だし、ユニコーンの角がモリニージョへと変化していく。
持ち手側が細く、かき混ぜる方は切れ込みの入った大小の円盤が重なったような形になっている。
宝箱の中には大きな缶に入ったココアパウダーもあった。
「早く帰ろうぜ」
「私にもやらせてよ」
「先に俺が混ぜてからな」
「ずるい」
「シュナが使ったら爆発するかもしれないだろう?」
「そんなことない!」
「断言できるか?」
「うっ……」
俺たちは神殿の道を引き返した。
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