十章 ローズ様とレイヴィンさん
冬になり雪の降るライゼン通り。今日もパン屋さんは朝から大賑わいだ。
「ご機嫌よ。ミラ、またパンを買いに来たわ」
「ローズ様いらっしゃい」
押し寄せる人の波に一人で懸命に対応しているところにローズがやって来る。
「ふふっ。相変わらずここは大賑わいね」
「お父さん達がいなくなったから一人で手が回らなくてもう大変よ」
王女の言葉にミラはげんなりした様子で呟く。
「あら、ベティーが手伝いに来てくれているんでしょ?」
「それが、雑貨屋のお仕事があるでしょ。だから毎回頼むわけにもいかなくてね」
不思議がるローズへと彼女は答えた。
「そう、それならわたしが手伝ってあげましょうか」
「なりません。貴女はご自分のお立場をもう少しお考え下さい」
「「!?」」
笑顔で提案してきた王女に答えたのはミラではなく、男性の声で二人は驚いてそちらを見やる。
「ローズ様。探しましたよ」
「レイヴィン。貴方何時からここに?」
恐い顔で話したレイヴィンへとローズが尋ねた。
「ついさっきですよ。さあ、王宮にお戻りを」
「…………いやよ」
隊長の言葉に王女は数秒黙ると清々しいまでの笑顔で答える。
「それだと、引きずってでも連れて帰らないといけない事になりますよ」
「見聞を広める為よ。これも視察になるでしょ」
レイヴィンが言うとローズが笑顔のまま言い返す。
「はぁ。仕方ありませんね。では本当に引きずってでも連れて帰る事にしましょう」
「わたしは机にしがみついてでも抵抗するわよ」
小さく溜息を吐き出すとそう話す隊長に王女が腕を組み答える。
「そんな大ごとになるような行為はお止め下さい」
「なら、わたしがお店を手伝うのを黙って認めなさい」
淡々とした口調を崩さずそう忠言するレイヴィンへとローズが強い口調で話す。
「……それがご命令ならば」
「違う! 命令なんかじゃないわよ。もう、貴方はまたそうやってすぐに従おうとするんだから。こういう時は感情をあらわにしてでもわたしを止めるべきでしょ」
命令だと思った隊長が無表情で了承する様子に王女が声を荒げて注意する。
「……申し訳ございません。俺には感情が分らないので」
「はぁ……またこれよ。そうだわ。良いこと思いついちゃった」
「「?」」
淡泊に答えるレイヴィンへと溜息を吐き出していたローズだが、何か思いついたみたいで微笑む。
その様子にミラ達は不思議そうに王女を見詰めた。
「レイヴィン。わたしと一緒にここのパン屋の御手伝いをしましょう」
「…………はっ?」
ローズの言葉に理解しかねた隊長が疑問符を浮かべる。
「ミラ、いいわね」
「え? えぇ。手伝ってもらえるなら私は大助かりだけれど」
王女の問いかけに戸惑いながらミラは答えた。
「それじゃあ明日パン屋の御手伝いをするわよ」
「はぁ。また何を企んでいるやら……」
含み笑いをするローズの姿にレイヴィンが溜息を零し呟いた。
「ローズ様、本気でやるの?」
「えぇ。わたしは本気よ」
了承したはいいが、よくよく考えてみたら王女を手伝わせることに何か言われないかと、思い始めたミラは尋ねる。
「でも、王女様を手伝わせたなんて噂が広まったりしたら」
「大丈夫よ。お母様にも協力してもらうから。ミラ、明日が楽しみね」
「はぁ……」
ご機嫌な様子のローズとは対照的に彼女は俯いて溜息を零す。
一体この後どうなる事やら。それは今のミラでは分からないのであった。
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