九章 ルッツからの贈り物
冬に近づき肌寒くなっていく頃。お店の扉を開けて誰かお客が入って来た。
「いらっしゃいませって。あら、ルッツ」
「よっ。ミラ、お店頑張ってる?」
入って来たのはシュトルクでミラを見るなり向日葵のような笑顔で話しかけられる。
「えぇ。初めはいきなり店長なんて無理って思っていたけれど、ベティーが色々と手伝ってくれてなんとかこうにかやっているわ」
「そっか。経営の事で悩み事とかあったら、先輩としていろいろと教えてあげれると思うから、いつでも相談に来いよ」
「有り難う」
彼の言葉に彼女は心からの感謝の言葉を述べにこりと笑う。
「いや、ミラにもお店があるしな。オレがちょくちょく顔出してやるから何か聞きたい事とかあればその時に話してくれ」
「え、ちょっと待って。ルッツにもカフェのお仕事があるでしょう」
笑顔で語るシュトルクへとミラは驚いて尋ねる。
「このお店が無くなったらミラに……じゃなかった! パンを買えるお店が無くなっちゃうからさ」
「そんなに家のパンが好きだなんて嬉しいこと言ってくれるけれど、でもルッツのお店だって忙しいでしょう」
彼の言葉に彼女は心配してそう聞いた。
「そうだけど、ミラが店長としてやっていけれるようにしてあげたいんだ。オレ、君のお店が好きだからさ。仕事なら何とでもなる! それにカフェの混み合う時間って決まってるから。それ以外の時間帯なら結構暇なんだよ」
「あら、あんなに人がいっぱい来てるのに、暇な時間もあるだなんて知らなかったわ」
力強く説明するシュトルクの言葉にミラは不思議そうな顔で呟く。
「そ、そうなんだよ。だから大丈夫だ」
「それなら経営の事についていろいろと教えて貰おうかしら。実は今まではただの売り子として働くだけだったから経営の事についてまだまだ勉強中でね」
彼が大きく頷き大丈夫だという言葉にすっかり納得した彼女は笑顔でお願いした。
「なら決まりだ! あ、そうだ。今の話ですっかり最初の目的を忘れてた」
「?」
シュトルクが言うとポケットを漁くる。その様子を不思議そうに眺めた。
「はい、これ。ミラに店長就任のプレゼント」
「え、これは?」
小さなケースを取り出すと笑顔で差し出す彼の手元を見ながら彼女は尋ねる。
「いいからオレからのプレゼント受け取って」
「え、えぇ。有り難う」
プレゼントだと言って差し出す……というより押し付けて来る彼からそれを受け取るとミラはケースを不思議そうに見詰めた。
「そ、それじゃあ。オレ仕事があるから。またな!」
「え、あ。待ってこれ中身は何なの?」
照れた顔で慌てて店を出て行ってしまうシュトルクの背中へと声をかけたが、彼が立ち止まる事はなく瞬く間にいなくなってしまう。
「もう。開けて中を確認すればいいか」
溜息交じりに呟くとケースを開けて中を見る。
「まぁ、可愛い」
そこにはパールの指輪が納められておりミラは微笑む。
「指輪なんて普段付けないけれど、せっかく頂いたのだからお仕事以外の時はつけておきましょうかね」
折角もらったのだからと彼女は思い呟く。
「今度何かお礼をしないとね」
既に見えなくなってしまったシュトルクがいた場所を見詰め独り言を零した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます