八章 アミーとハムサンド
紅葉が綺麗なライゼン通り。ミラは何時ものように店番をしながら過ごしていた。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ。あら、アミーさん」
元気な声でアミーが来店してくると彼女は笑顔で出迎える。
「今日は如何されたんですか」
「うん。ちょっとここのパンが食べたくなってね。それから何かいいアイディアを貰えないかと思って」
ミラの言葉に彼女が笑顔で答えた。
「また新作のチーズケーキを考えているんですか?」
「うん。実はそうなんだよね。チーズケーキ蒸しパンもいいアイディアだったし、作っていて楽しかったけど、もっともっと新しいものを作ってみたくなって。それで、貴女のお店に来たの」
彼女は驚いて尋ねる。するとアミーが肯定して話した。
「あくなき追求心ね」
「さぁ~て。何かいいアイディアが浮かぶパンはないかな」
呆気にとられるミラの前で彼女が腕まくりする勢いで言うとパンを見る。
「う~ん。ブリオッシュか。これは違うな。ジャムパンもなんかしっくりこないし……ねじりパンは面白い形でインパクトはあるけどなんだかな~」
パンの山を見やり独り言を零すアミーの姿を彼女は黙って見守った。
「あ、サンドウィッチだ。卵にチーズにサラダにこれはハム……ハムサンド……チーズケーキをアレに挟んでサンドウィッチみたいな形にすれば……これだぁ!!」
「ひゃあっ……びっくりした」
独り言を零していた彼女がいきなり大きな声をあげたので、ミラは驚いてしまい飛び跳ねる。
「ミラ、このハムサンド一つ頂戴」
「え、えぇ。毎度有り難う御座います」
アミーの言葉に戸惑いながら頷くとレジを打つ。
「ふふっ。良いアイディアが浮かんだから新作楽しみにしていてね。それじゃあ」
「まるで嵐だわ」
嬉しそうに笑いお店を出て行った彼女のいた場所を見詰めミラは小さな独り言を零した。
それから数日後。アミーが再びお店へとやって来る。
「ミラ、有り難う! 貴女のおかげで新作が完成したわ」
「ひゃあ。……ア、アミーさん。急に飛び込んでくるからびっくりしたじゃないの」
扉を勢い良く開けて入って来た彼女へとミラは驚いて、心臓の鼓動が早鐘のごとく打ち鳴る中声をかけた。
「ごめん、ごめん。それより早速貴女に試食してもらおうと思って持ってきたのよ」
「私が試食。如何して?」
あっけらかんとするアミーに何を言っても無意味だと思った彼女は話しを進める。
「それは勿論。あのハムサンドからアイディアをもらったからよ。だからミラに最初に試食してもらって感想を貰おうと思ってね」
「はぁ」
言わんとする意味が解らなくてミラは呆けた声をあげた。
「兎に角、食べてみて」
「それじゃあ遠慮なく。頂きます。む、これは!」
差し出されたバスケットの中に入っていた新作とやらを口に入れた途端、彼女の顔がほころぶ。
「生地が柔らかくて美味しい~。間に挟んであるチーズケーキがいい味出しているわ」
「ふふ。シフォンケーキの生地の間にチーズケーキのクリームを挟んだ、その名もチーズケーキサンドよ」
笑顔で語るミラの言葉に嬉しそうにアミーが微笑み話す。
「これなら、お店に出しても大丈夫よ。だって、とっても美味しいんだもの」
「良かった。貴女がそう言うんなら問題ないわね」
二人で語り合い笑う。こうしてチーズケーキ屋さんに新たなメニューが加わったのであった。
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