十二章 騎士と貴族
カフェで微妙な空気になったがあの後は特に何か起こるわけでもなく二人はお店を出た。
「さて、次は……」
「あれ、ミラじゃないか」
次は何処を案内しようかと思っていると誰かに声をかけられてそちらへと振り返る。
「マルクス? こんなところで何しているの」
振り向いた先に立っていたマルクスへと彼女は尋ねた。
「パトロール中なんだ。ミラは如何してここに?」
「私はこちらのグラウィスさんに街の案内をしてあげていたのよ」
彼が答えると続けて不思議そうな顔で尋ねる。それにミラは言うと隣にいるグラウィスを見やった。
「グラウィス……ってまさかスターディス家のご子息様?!」
「え、マルクス。グラウィスさんを知っているの」
驚くマルクスへと彼女は不思議そうな顔で聞く。
「知ってるも何も、王家の分家で王国一の侯爵家。王女様とも面識があり何度かパーティーの席でお会いしている物凄いお方のご子息様なんだよ」
「え? ……えぇっ!?」
興奮した様子で話すマルクスの言葉にミラは盛大に驚いた。
「そんな凄い人を案内するなんてどういう経緯なの?」
「え、ええと。私がぶつかってグラウィスさんが謝りに来て、それから常連さんになって、街を案内して欲しいって言われたからかしら」
彼の問いかけに彼女は掻い摘んで説明する。
「ぶつかってって……ごめん。よく分からないのだけれど。そんなことしてグラウィス様を謝りに来させるのは多分ミラくらいだと思うよ。普通の人はそんな事すらできやしないから」
「そ、そんなに偉い人なの?」
「……」
蒼白になり語るマルクスの言葉にミラは尋ねた。それに答えはなかったが呆れられていることが彼女には伝わって来て顔色を青くする。
「ミラさん、こちらの騎士とは随分と親しい間柄のようですが、彼とはどういう仲で?」
「え、ええと。マルクスとは幼馴染なの」
暫く黙って話を聞いていたグラウィスが尋ねるとミラはまだ蒼い顔のまま答えた。
「初めまして……ではないですよね。王宮で何度かお姿は拝見いたしております。王国騎士団第二十三番隊隊員のマルクスと申します」
「あぁ。どこかで見た顔だと思ったら王女様にこき使われている青年君か。これはどうも」
敬礼する勢いで答えたマルクスへと彼がにこりと笑い話す。
「ははっ。……本日はお日柄もよく……ごめんミラ。パトロールの途中だからこれで!」
「え、ちょっとマルクス?」
居心地が悪そうに話していたかと思うと、急に駆け出していなくなる彼の背中へと彼女は声をかけたが、マルクスが止まる事はなく姿が見えなくなっていった。
「どうしたのかしら?」
「よっぽどお仕事に熱心なのでしょう。それよりミラさん。今日はいろいろと案内して頂き有難う御座いました。そろそろパン屋に戻って買い物をして家へと帰ります」
怪訝そうにするミラへとグラウィスがそう話し帰路を促す。
「そうね。暗くなってきたし、今日はもう帰らないと」
「えぇ。行きましょう」
納得する彼女に彼が頷き歩き出す。
「……グラウィス様が相手じゃかないっこないじゃないか」
その頃ミラ達の前から姿を消したマルクスが物陰で肩を落とし盛大に溜息をついていたのだがその事実を知る者は誰もいない。
「ただいま」
「お帰りなさい。あらまぁ。グラウィス様お戻りですか」
「いらっしゃいませ。グラウィス様。パンを籠に入れておきましたよ。ささ、どうぞ」
元気な声で扉を開けて中へと入るミラ。その言葉で駆け寄って来たミランダがグラウィスの姿を見て微笑む。マックスも慌てて籠を手に取り差し出す。
「うむ。有り難う」
「「ご来店誠に有り難う御座いました。お気をつけてお帰り下さい」」
彼が籠を貰うと店を出て行く。その後ろ姿に両親が笑顔で見送り頭を深々と下げる様子にミラは鼻を鳴らす。
「そんなに媚び諂うみたいな態度を取ったらグラウィスさん気を悪くするわよ」
「あのなぁ、ミラはまだ分からないかもしれないが、あのお方は凄いお金持ちのご子息様なんだぞ」
「そうよ、そんなお人に失礼があったら私達の首が飛ぶわ」
彼女の言葉にマックスとミランダが何を言うのだといいたげに話す。
「そうかしら。グラウィスさんは普通に接して欲しいって言っていたわ。それってお父さん達みたいな態度を取る人達にうんざりしているからじゃないの」
「ミラ。例えグラウィスさんが良いといったとしてもお家の方達がどう思うか……」
「そうよ。いい。失礼があったらこんな街の小さなパン屋なんて簡単につぶせちゃうんだからね。そうなったら私達路頭に迷うことになるのよ」
ミラは呆れながら答えると両親が言い聞かせるかのように話す。
「私には分からないわ。グラウィスさんが普通でいいっていうんだもの。それで良いと思うんだけれど」
「「良くない!!」」
彼女の言葉にマックスとミランダが鬼のような形相でそう言い放つ。
「!?」
「いい。貴女がこれから末永く幸せに普通の暮らしが出来るようにするためにも、お貴族様に失礼があってはならないのよ」
「それだけは絶対守らないといけない事なんだ。分かってくれるね」
「……は~い」
驚くミラへと両親が話す。それに不満そうにしながらも口では適当に返事をした。
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