十一章 変な二人
ミラの案内でカフェへとやって来た二人。早速お店に入って行った。
「あ、ミラ! いらっしゃいま……」
「「?」」
ミラの姿を見た途端笑顔で声をかけて来たシュトルクだったが隣にいるグラウィスの姿に動きを止める。その様子に二人は不思議に思い目を瞬く。
「ミラ、そいつ誰?」
「この人は家のお客さんでグラウィスさんって言うのよ」
引きつった笑顔で尋ねる彼へと彼女は答える。
「ふ~ん。お客さん、ね。そっか。俺は店主のシュトルク。よろしく」
「初めまして。貴方がここの店主さんですか。いや、お若いのに凄いですねぇ」
笑顔で挨拶を交わすと二人は握手をする。しかしその手はお互い痛いほどに力を込めていたのだがミラは気付かない。
「それではお席の方にご案内いたします」
「よろしく頼む」
暫くお互い握手し合っていたかと思うと今度は席の方へと向かう。ミラは二人の様子に不思議に思いながらもついて行った。
「ミラはこっち。グラウィスさんはそちらです」
「え、ルッツ。ちょっと待って。明らかにグラウィスさんの席の方が狭いじゃないの」
案内されたのは壁際の席で壁を背にする方をグラウィスへと進めるシュトルクへと彼女は尋ねる。
「オレ、レディーファーストだから。男性は狭い席で我慢してもらってるんだよね」
「ははっ。いや、私はどんな席でも一向にかまわないよ。体を鍛えているんでね」
二人は火花を散らしながら笑顔で話し合う。
「あ、あの。やっぱり私がそっちに座るから、グラウィスさんはこっちの広い席に」
「いや、大丈夫ですよ。ミラさんどうぞお座りください」
たじろぐミラへと彼が答え椅子を引いて座らせる。
「ちっ。……ご注文が決まりましたらお呼びください」
その様子に先を越されたシュトルクが、悔しそうに小さく舌打ちしてから笑顔で言うと席を離れた。
「こちらがメニュー表です。あの、グラウィスさんは何を頼まれますか?」
「ミラさんがおすすめする物なら何でも構わないよ」
変な空気に戸惑いながらもミラは尋ねる。それにグラウィスが先ほどとは違う雰囲気で答えた。
「分かったわ。それじゃあ私のおすすめにするわね。すみません~」
「はい。ミラ、をどうぞ」
彼女の声にすぐに反応したシュトルクがやって来る。
「ボンゴレパスタを二つ頼むわ」
「畏まりましたボンゴレパスタ二つですね」
ミラがメニュー表を指し示し注文すると彼が伝票に文字を書き厨房の方へと向かう。
「ここのボンゴレパスタとっても美味しいのよ。海が近くないこの国で海鮮物が食べられるのはここだけだから」
「そうですか。確かにこの国は海から離れていますからね。ミラさんは海を見た事はありますか?」
笑顔で語る彼女の言葉にグラウィスが尋ねる。
「それが一度もないのよね。人生で一回くらいは本物の海を見てみたい物だわ」
「そうですか。成る程……海が見られると良いですね」
憧れの眼差しでどこか遠くを見つめるミラの姿を見ながら彼が微笑み言った。
「お待たせいたしました。ボンゴレパスタ二つになります」
「え、ちょっとルッツ。このクリームソーダー頼んでないわよ」
パスタの乗ったお盆をもってやって来た彼が二人の前に料理と一緒にクリームソーダーを置く。その様子に驚いた彼女は不思議そうに尋ねた。
「この前のお礼。ミラのお陰で新しいメニューが増えたからな。あれ、結構評判良いんだぜ。有難うな!」
「そう、良かったじゃないの」
向日葵のような笑みを浮かべてお礼を述べるシュトルクにミラも嬉しそうに微笑む。
「あぁ。だからこのクリームソーダーは遠慮なく頂いてくれ」
「そう言うことなら、有難くいただくわ」
彼の言葉にミラは笑顔で了承する。
「ミラさん。この前とは一体?」
「えっと実はこの前新しいメニューを考えているとかで家のお店にルッツがやって来て、そこで試食をして貰って新商品の開発をしたのよ」
不思議そうなグラウィスへと彼女は説明した。
「成る程、そうでしたか。いや、一体どんな料理なのかとても興味がありますね」
「自信作だぜ。その名もスクランブルエッグコッペパンだ」
彼の言葉にシュトルクが胸を張って答える。
「ははっ。成る程。ネーミングセンスは兎も角。美味しそうですね」
「あんた食べてみたいんだったら作ってやってもいいけど」
嘲笑いながらもそう話すグラウィスへと彼が引きつった笑みを浮かべながら話す。
「では今度来た時にでも頂きましょうかね。あぁ、でも私は中々街に来られない身分なのでいつとは確約できませんが」
「へ~。お貴族様って忙しいんだな。まぁ、別にいつでもいいけどね」
(何だか、二人とも変なのよねぇ~)
またも微妙な空気になり火花を散らし合う二人の様子にミラは困惑しながらクリームソーダーを啜った。
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