十章 案内という名のなにか
ひょんなことからグラウィスに街案内することとなったミラはまず最初に雑貨屋へと向かう。
「ここはね、私の友達のおばあさんのお店でね。コゥディル王国一の品ぞろえなの」
「ほう。それは興味深いな」
彼女の説明を聞いて彼が雑貨屋の扉を見詰める。
「まぁ、自称だけどね」
「いや、自信がなければ王国一とは言えないだろう。さて、ミラさんの友人にも挨拶しないといけないな」
付け加えるように言ったミラへとグラウィスが答え扉を開けて中へと入った。
「いらっしゃいませ……ってミラ。その男の人は誰?」
「お嬢さん、初めまして。私はグラウィスと申します。ミラさんからこのお店を紹介されましてね」
目を丸めて不思議がるベティーへと彼が柔和な笑みを浮かべて自己紹介する。
「あら、そうだったの。私はてっきりミラに彼氏が出来たのかと思ったわ」
「もう、そんなわけないでしょ。グラウィスさんは家のお客さんよ」
可笑しそうに笑う彼女へとミラは頬を膨らませて抗議した。
「あははっ。そう。なら良かった」
「何が良かったのよ?」
ベティーの言葉の意味が解らず不思議がる彼女へと、しまったといった顔になるも取り繕うように微笑む。
「私より先に彼氏を作られちゃあ悔しいでしょ。だからよ」
「何だ、そんなこと。対抗意識なんて持たなくてもいいのに」
彼女の話にミラは納得すると小さく笑う。
「それで、お嬢さん。お名前は何とお呼びすればよろしいかな?」
「ベティーよ。それより、せっかく雑貨屋に来たんですから何か買っていってくださいな」
グラウィスが二人の話が終わったタイミングで声をかけるとベティーが答えにこりと笑う。
「あぁ、そうさせてもらおう。そうだな……ここからここまで全部買っていく」
「え? ぜ、全部ぅ!?」
彼の言葉に拍子抜けして驚くベティー。
「あ、言ってなかったけどグラウィスさん物凄くお金持ちで、ローズ様と同じ様な買い物の仕方をするのよ」
「な、成る程ね。金持ちの考えは分らないわ」
苦笑しながら耳打ちしてくれたミラの言葉で納得するも、驚いた顔はそのままで暫く呆然とする。
「頂けるかね」
「は、はい。只今!」
グラウィスの言葉でようやく動けるようになったベティーが急いで籠の中へと商品を詰め込む。
「有り難う御座いました」
「では、次の場所に行きましょうか」
笑顔で送り出してくれる彼女の声を聞きながらミラは言うと朝日ヶ丘テラスへと向かった。
「ここのチーズケーキとっても美味しいのよ」
「そうか、ミラさんのお勧めなら楽しみだ」
お店のテラス席へと座りチーズケーキが運ばれてくるのを待つ。
「はいチーズケーキ二つとチーズケーキ蒸しパンです」
「え? あの、アミーさん。私チーズケーキしか頼んでないわよ」
笑顔でチーズケーキの乗ったお皿を置いてくれるアミーへと彼女は不思議そうに尋ねる。
「ふふっ。この前のお礼。貴女のお陰で究極のチーズケーキ蒸しパンが出来たでしょ。それが大好評で飛ぶように売れて、家は大助かりなの。だからおまけ」
「あ、有り難う御座います」
笑顔で話す店主の言葉にミラはお礼を述べた。
「ミラさん、この前とは一体?」
「あ、実はこの前ひょんなことから新しいチーズケーキのメニューを一緒に考えて作る事になってね。それで出来たのがこのチーズケーキ蒸しパンなのよ」
「なるほど。ケーキとパンが出会ってこの素敵な商品が生まれたと言う訳か」
不思議そうにするグラウィスへと説明すると彼が納得して頷く。
「それじゃあ、ゆっくり食べていってね」
「はい。有難う御座います」
アミーが言うと席を離れていく。ミラはお礼を述べるとテーブルの上のチーズケーキを見詰めた。
「ふふっ。ここのチーズケーキ本当に美味しいからいつも楽しみなのよね。それではいただきます」
幸せそうに花を飛ばしながら食べ始める彼女の姿をグラウィスが優しい瞳で見つめる。
「なんだか、不思議な気持ちだな」
「ふえ? わ、私そんなに変な食べ方してるかしら?」
そっと呟いた言葉はミラの耳には聞こえなかったようで、じっと見詰められていることに気付いた彼女は恥ずかしそうに尋ねる。
「いや、本当に幸せそうに食べるものだと思ってね」
「は、恥ずかしい~」
どんな変な顔で食べていたのだろうと思い恥ずかしがるミラへとグラウィスが小さく笑う。
「それでは私も頂くとするかね。あむ……はむ。ん! これは美味い」
「そうでしょう。ここのチーズケーキはコゥディル王国一美味しいチーズケーキなんだから」
瞳を輝かせて話す彼へと彼女は誇らしげな顔で胸を張る。
「美味しいチーズケーキのお店を教えてくれてどうも有難う」
「まだまだこれからよ。次はカフェよ。そこのパスタとっても美味しいんだから。さ、食べたら行くわよ」
黙々と食べ進めていたグラウィスのお皿が空になった頃に声をあげると、ミラは微笑み次だと言って彼の手を引っぱり席を立つ。
「っ!? ……街案内なんて本当は意味がない。ただこうして彼女とどこかで遊びたいとそう思って……なんて言ったらミラさんは怒るだろうか?」
街案内という名のデートだとグラウィスは心の中で呟きながら微笑んだ。
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