七章 コッペパンとスクランブルエッグ
秋になり彩られたライゼン通り。ミラは今日も元気に働いていた。
「いらっしゃいませ」
「う~ん。そうだな……」
お客が入ってきたので声をかけたがそこに立つ青年は顎を捻り悩む。
「あの、どうされましたかって。貴方はカフェの店主さん」
「うん。今新しい仕入れ先を探していてね。そっか、ここ君の店だったんだ」
驚く彼女へと彼がにこりと笑い答える。
「私のお店って言うか、両親のお店なんだけど」
「細かい事は気にするな。それより、君だったらどんなメニューがあると良いと思う?」
ミラの言葉を最後まで聞かずに青年が尋ねる。
「え、えっと。そうねぇ、手軽に食べられてお腹が一杯になる料理とかかしら」
「そうか。それもいい案だな」
聞かれた彼女は考えながら答えた。その言葉に彼がうんうんと頷く。
「それで、家のお店を仕入れ先にしたいって話なら、私よりも父に頼んだ方がいいと思うんだけれど」
「それは、そうかもしれないけれど。でも、君の許可も必要だろう」
ミラの話に青年がそう言って笑う。
「そうかしら?」
「そうだよ。君に断られたらこの話は意味をなさないからな」
不思議そうにする彼女へと彼が大きく頷き答える。
「さっきから君、君って。私にはミラって名前があるの。そう呼んで頂戴」
「それならオレもシュトルク……いやルッツって呼んでくれ。な、それでお互い名前を呼び合う。いいだろう」
ミラの言葉にシュトルクがそう言うとにかりと笑った。
「分かったわ。それじゃあ父を呼んでくるから、ちょっと待ってて」
「おう」
彼女の言葉に彼が頷いたのを確認すると厨房へと向かう。
「家の店を仕入れ先にしたいってミラから聞いたが、またどうしてそんな話になったんだい」
「え、ええっと……理由、だよな。う~ん。そうだなあえて言うなら新しいメニューを増やしたかったから、だな」
「家のパン屋じゃなくてもいいじゃないの」
マックスの言葉にシュトルクが一瞬考えこんだがそう答える。それにミラは不思議そうに尋ねた。
「いや、ここのお店最近有名だって聞いてさ。それで仕入れ先の候補の一つとして話をしに来たんだよ。うん」
「そうか。分かった。それじゃあ、実際にパンを試食してみてはどうかな」
「おう、そうさせてもらうぜ」
父親の言葉に彼も頷き早速パンの試食を始める。
「さあ、用意したわよ。どんなパンが良いか分からないから色々と持って来たけど」
「それじゃあさっそく。頂きます!」
ミラが用意した試食用のパンの山を見て両手を合わすと端から食べ始めた。
「メロンパンうめぇ! はむ。ホットドック最高! むぐ。ジャムパンいいね。あむ。ブリオッシュ美味しい」
「「……」」
用意したパンを次々と食べて歓喜するシュトルクの様子に二人は呆気にとられる。
「ははっ、美味しいって言って貰えるのは有り難いんだけどね」
「これじゃあただ単に。パンを食べているだけじゃないの……」
苦笑を零すマックスの横でミラも溜息を吐き出した。
「うん。こ、これは!」
「「?」」
彼がコッペパンを食べた途端に動きを止める。その様子に二人は不思議そうに目を瞬いた。
「このコッペパン。柔らかくてほんのり優しい甘さで塩加減も丁度良くて、そうだな。あれと合わせると良いかもしれない……ちょっとコッペパン一個貸してくれ」
「は、はい?」
シュトルクの勢いに押されながらミラは返事をするとコッペパンを手渡す。
「厨房借りるぞ」
「あ、あぁ。どうぞ」
彼の言葉にマックスも圧に負けて返事をする。
「卵と塩コショウ。それから砂糖とハーブを」
「は、はい」
急に料理人の顔になったシュトルクに言われるがまま彼女は材料を用意する。
「……よし。このコッペパンにはさんでっと。出来た!」
嬉々とする彼の手元にはコッペパンに挟まれたスクランブルエッグの料理が出来ておりミラとマックスはそれを見詰めた。
「早速試食してみてくれ」
「えぇ」
「分かった」
にこりと笑うシュトルクの言葉に二人は言われるがまま出来立てほやほやの料理を口に運ぶ。
「はむ。むぐむぐ。ん!」
「こ、これは!」
料理を食べた途端二人の瞳が輝き笑顔になる。
「「美味しい!!」」
「そうだろう。そうだろう。これを店で出せば人気商品間違いなしだぜ」
笑顔で花を飛ばす親子へとシュトルクが自信満々な顔で頷く。
「新しいメニューも決まった事だし、このパン屋を仕入れ先として登録させてくれ」
「あぁ、分かった。こんなに美味しい料理を提供することが出来るなら喜んで」
「私も大賛成よ」
彼の言葉に二人は笑顔で答える。
こうしてカフェの食材の仕入れ先としてパン屋は提供店となった。
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