五章 チーズケーキと蒸しパンと
蒸し暑い夏が来たライゼン通り。パン屋さんは今日もお客で賑わっていた。
「いらっしゃいませ」
「う~ん。如何したらいいかな~」
お客が来店してきたので笑顔で出迎えるミラの耳に、女性の悩む声が聞こえて近寄る。
「あの、どうかされたのですか」
「うん。今ね、新しいメニューを考えているところなの」
近寄って問いかけると女性が答えまた悩む。
「新しいメニューを……って、あら。貴女はチーズケーキ屋さんのアミーさんではないですか」
「うん。新しいメニューを考えていたらね。このお店が最近人気だって聞いてそれでよいアイディアがないかと思って来たの。ねえ、貴女だったらどんなメニューがあると良いと思う」
女性がよく行くケーキ屋さんの店主だと気付いたミラはそう言う。
すると彼女が笑顔で頷き続けて質問した。
「う~ん。そうね。ベリーチーズケーキタルトとかどうですか」
「それもいいかもしれないね。でもそうじゃないの。ただのチーズケーキでは意味がないから。もっと他に誰も食べた事がないようなチーズケーキじゃないといけないのよ」
彼女は悩みながら答えるとアミーが首を振って話す。
「難しいわね。でもチーズケーキとパン屋さんに何のつながりがあるの?」
「特にないわ。ただパンから何かアイディアが沸かないかと思って」
ミラのもっともな質問に彼女は笑顔で答える。
「それなら、家のパンを見て行けばいいじゃない」
「そうさせてもらうわね。う~ん。クルミパン、チョココロネ、メロンパン、ホットドックにアップルパイ……どれも違う気がするなぁ~。あら、これは」
彼女の言葉にアミーは棚に並ぶパンを色々見ていくとある商品に目を止めた。
「あぁ、それはイチゴのジャムを入れた蒸しパンよ」
「蒸しパン、これだ! チーズケーキ蒸しパンなんてあったら美味しそうだと思わない」
ミラは商品を見て説明する。その言葉に瞳を輝かせた彼女が力説した。
「チーズケーキ蒸しパン。確かに美味しそうだけれど」
「そうと決まれば、早速試作品を作らないと。あ、貴女も一緒に来て頂戴」
「え。ちょ、ちょっと!?」
ミラの腕を引っぱりパン屋を出たアミーに連れていかれて、彼女のお店までくると厨房へと入る。
「私はチーズケーキの材料を用意するから貴女は蒸しパンの用意をして」
「あの、どうして私が……」
エプロンをつけて腕まくりする彼女へとミラは尋ねた。
「私はチーズケーキの作り方は知っているけれど、蒸しパンの作り方は知らないからね。だから貴女にチーズケーキ蒸しパンを作る為の手ほどきを受けようと思って」
「はぁ」
アミーの話に彼女は呆けた声を出す。どうしてこうなってしまったのだろうと考えながら、さっさと準備を進める彼女にはこれ以上話を聞いてもらえそうにないと結論付け、ミラも蒸しパンの材料を用意する。
それから試行錯誤しながらチーズケーキ蒸しパンを作り始めたのだが中々思うように商品化とまではいかなくて二人は悩む。
「う~ん。難しいなぁ。チーズケーキと蒸しパンの材料を混ぜ合わせるだけでは理想の商品は作れない、か」
「そもそもチーズケーキと蒸しパンを一緒にするのが間違っているのでは……」
悩むアミーへとミラは呟く。
「足しても駄目引いても駄目。ならば材料自体を見直すしかないわね。ミラ、美味しいチーズケーキ蒸しパンを作るために頑張ろうね」
「だから、私はどうしてここで一緒に作らないといけないのよ」
意気込む彼女へとミラは盛大に溜息を吐き出し肩を落とした。
夕闇が迫る朝日ヶ丘テラスの一角で、こうこうと電気が灯るチーズケーキ屋さん。その中で笑顔のアミーと疲れた様子のミラがテーブルの上を見ていた。
「遂に完成したわ! 究極のチーズケーキ蒸しパン。これなら文句なしに商品化できる」
「はぁ……それは良かったわね……」
笑顔で語る彼女へとげっそりとした顔でミラは呟く。
「貴女も付き合ってくれて有り難う。そう言えば貴女名前って何だっけ?」
「今頃……私はミラよ」
アミーの言葉に飽きれながら彼女は名乗る。
「ミラね。手伝ってくれて有り難う。そうだわ、このチーズケーキ蒸しパン良かったら食べてみて」
「えぇ。それじゃあ頂くわ。あむ、むぐむぐ……ん!?」
彼女が言うとテーブルの上のチーズケーキ蒸しパンを勧めた。それに答えて手に取って食べてみたミラは一気に顔をほころばせる。
「おいしい~。これ凄く美味しいわ。今までの疲れが一気に吹き飛ぶほどに」
「ふふっ。そうでしょう。これを食べた人がみんな元気になること間違いなしよ」
笑顔で語る彼女へとアミーが微笑み頷く。
「明日から早速販売開始するから貴女も食べに来てね」
「はい。友達を連れて絶対に食べに来ます」
彼女が言うとミラは笑顔で答えた。色々と大変な一日ではあったが、こうして新たなメニューが出来たチーズケーキ屋さんに通う楽しみがまた一つ増えたと思ったのである。
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