二章 王宮観覧

 時は流れてついに王女の誕生日祝いで王宮の一部が一般公開される日が来た。


ミラはいつもよりも綺麗でおしゃれな服を着るとベティーと一緒に王宮へと向かう。


「いよいよお城の中が見れるのね。あ~楽しみ」


「そうね。一体どんなところを見られるのかしら」


二人はご機嫌に鼻歌を歌いながらお城へと向かう。


「うわ~。凄い人」


「本当ね。こりゃあ戦争だわ」


王宮の正門にはすでに沢山の人が集まっており皆中へと入る順番を守って列を作っていた。その様子に二人は呆気にとられながらも最後尾へと並ぶ。


そうして順番を待っているといよいよ城の中へと入る事が出来る時が来た。


「いよいよね」


「えぇ。楽しみだわ」


ベティーの言葉にミラは答える。前の人に続いてお城の庭を見ながら歩きエントランスへと入り渡り廊下を通って中庭を見ると再びエントランスへと戻り正門へと戻っていく。


「「……」」


二人はがっかりとした様子で外へと出て来た。


「人が一杯いすぎて……」


「あんまりよく見えなかったわ」


前に沢山の人がいて尚且つ流れが速くゆっくり見る事もできないまま気が付いたら外に出ていたのである。


「「はぁ……」」


「二人とも溜息なんかついてどうしたの」


盛大に溜息を吐いた時誰かに声をかけられた。


「あ、マルクス」


「何だか元気がないみたいだけれど、どうしたの?」


ミラの元気のない声にマルクスが心配そうに尋ねる。


「それがね、王宮の中を見れると思って期待してきたのよね」


「うん」


彼女の話に小さく頷きながら聞き入る。


「それがさ、人が多すぎて良く見えないうえに、流れが速くてじっくり見る事も出来なくて」


「せっかくお城の中を見られる機会なのに全然楽しめなかったって訳」


「そうだったんだ」


二人の話にマルクスは考え込むように顎に手を宛がう。


「もう一度見る事も出来るかもしれないよ」


「「え?」」


彼の言葉に二人は驚く。


「ね、ローズ様」


「そうね。二人はわたしの友人だから特別に許可をもらってきてあげるわ」


にこりと笑うとマルクスが二人の背後へと視線を送る。それに答えるようにローズが現れ微笑んだ。


「ローズ様何時からそこに?」


「退屈なパーティーを抜け出してきたら何だか疲れた様子の二人を見かけたので気になってね」


ミラの言葉に彼女はにこりと笑い話す。


「今日の夕方正門の前で待っていなさい。わたしが何とかしてあげるから」


「はぁ」


「分かりました」


胸を張り任せろというローズに二人は生返事しかできなかった。


そうして言われたとおりに夕方再びお城の正門へとやって来る。


「あ、えっとレイヴィンさん?」


「……」


そこにはレイヴィンが門の前に立っていてミラは驚いて声をかけたが、彼はまっすぐ前を見詰めたまままるで二人が此処にいないかのように佇んでいた。


「あの、レイヴィンさん?」


「……俺はただの門番だ。門を守る仕事をしているだけだ」


ミラが声をかけるとぶっきら棒に答える。


「「えっと……」」


「つまり、貴女達はここに来なかった。そう言うことよ」


その言動に如何したものかと思っているとローズの声が聞こえて来た。


「レイヴィンは何も見ていない。貴女達はここに来ていなかった。そうよね」


「「!」」


彼女の言葉にようやく意味を理解した二人は目を見開き驚くとにこりと笑う。


「えぇ。そうよ。そうだわ」


「そうね。私達は来ていない」


ミラの言葉にベティーも頷く。


「あんまり時間がないからね。さ、行きましょう」


「「はい」」


ローズの言葉に二人は返事をすると正門を通り庭を散策する。そうしてエントランスへと入るとその広さと美しさに呆気にとられ立ち止まった。


「す、凄い……」


「圧巻だわ」


呆けた顔で呟く事しかできない二人にローズはおかしそうにくすりと笑う。


「こんなの驚くほどのことでもないと思うけれど」


「いやいや。ローズ様はお貴族様だからそう思うかもしれないけれど、私達庶民にしてみたら、こんなに広くて美しくて装飾品がいっぱいある玄関なんて初めて見るんだから」


「そうよ。凄いとしか言いようがないわ」


彼女の言葉にベティーが捲し立てて話すとミラも頷き同意する。


「あら、そうかしら」


「「そうですってば」」


不思議がるローズへと二人は力説するかの如く同時に返す。


「まぁ、いいわ。さ、次に行きましょう」


「もっとゆっくり見ていたいけれど、時間がないのよね」


「そうね。行きましょう」


彼女の言葉に二人は返事をすると渡り廊下を通り中庭へと向かう。


「うわ~。素敵」


「ホントね」


昼間は良く見えなかった中庭には色とりどりの花が咲き乱れ中央には女神像が設置された噴水がありその光景に二人はうっとりとした目で見つめる。


「そんなに見詰める程のものかしら……はっ! 隠れて」


「「え?」」


何かに気付いたローズが二人を茂みの奥へと隠す。


「誰だ! ……こ、これはローズ様」


「見回りご苦労。ここには異常はないわよ」


見回りの兵士がローズの姿を見て慌てて姿勢を正すと彼女は堂々とした態度で答える。


「はっ。しかし何故こちらに?」


「夜の散歩よ。今日は月が綺麗だからね」


「左様でしたか。しかし夜は危険があります。お一人で余り出歩かないようにしてくださいませ」


兵士の疑問にすぐに答えると納得はしてくれたみたいだが危険だと忠言されてしまう。


「近くにレイヴィンがいるから大丈夫よ」


「あぁ。それなら安全ですね。では、私はこれで失礼します」


ローズの言葉に兵士がそう言うと立ち去っていく。


「…………ふぅ。もう出てきても大丈夫よ」


「はぁ~。冷や冷やした」


「許可はとってあるんじゃなかったの」


彼女の言葉にベティーが冷や汗を拭いながら言うとミラは気になった事を尋ねる。


「王女の許可は貰ったけれど他の人からの許可は貰っていないからね。あ、でも女王にはちゃんと許可を取ってあるから大丈夫よ」


「だったら隠れなくても良かったんじゃ」


ローズの話にミラはさらに不思議に思い尋ねる


「王宮に仕えている人全員に話が通っているわけではないの。だから見つかったら騒ぎになる可能性もあるのよ」


「ふ~ん」


彼女の言葉に納得するともうこれ以上ここに留まってはいけない気がして歩き出す。


「ミラ?」


「何時までもここにいたらまたさっきの兵士に見つかるかもしれないでしょ。王宮観覧はこれでお終い」


ベティーの呼びかけに振り返ると彼女は答える。


「そうね。私もそう思っていた所よ」


「それじゃあ行きましょうか」


二人も同意して三人並んでエントランスまで戻っていく。


こうして夜の王宮観覧は幕を閉ざした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る