一章 ベティーからのお誘い
春の暖かな日差しが差し込むライゼン通り。その道をご機嫌な様子で歩く一人の娘。ベティーが嬉しそうな満面の笑みを浮かべてパン屋の扉を開く。
「いらっしゃいませ。あら、ベティーじゃないの。お店はいいの?」
「ちょっと嬉しい話が舞い込んできたから貴女を誘いに来たのよ」
ミラは来店してきた彼女へと笑顔で近寄って行く。
「嬉しい話?」
「そうなの。実は今度王女様の誕生日でしょう。だからお城からの遣いの人が来てね、私に是非雑貨屋の代表として、プレゼントを用意して欲しいと頼まれたの。その時にね、お友達を連れてきてもいいって言われたのよ」
不思議がる彼女へとベティーは興奮した様子で話す。
「え~!? 凄いじゃない。それじゃあ王女様に会えるのかしら?」
「それは分らないわ。でも王女様へのプレゼントを、私が代表して選ぶだなんて、凄い光栄な事だと思わない」
「思う、思う。本当に凄いわ!」
二人ではしゃいでいるとお店の扉が開き誰かが入って来た。
「こんにちは。ミラいるかな?」
「あら、マルクスじゃないの。またおつかいを頼まれてきたの?」
入ってきたのはマルクスでミラは籠を持ってこようと動く。
「あ、いや。今日は騎士団のおつかいじゃなくて王女様からの遣いなんだ」
「「え?」」
彼の言葉に二人は目を丸くして驚く。
「王女様の誕生日がそろそろだろう。それで誕生日の記念に城の一部を民間人に公開することになったんだ。だからこの機会にミラもベティーも見に来たらどうかって伝えてくれないかって」
「それは凄い! お城の内部を見られるのね」
「勿論行かせてもらうわ。こんな経験めったにできる事じゃないもの」
マルクスの話に食らいつく二人。若干引き気味になりながらも彼は姿勢を戻すと口を開く。
「そ、それは良かった。王女様も喜ぶと思う」
「だけどマルクス。貴方確か第二十三番隊の隊員よね。王女付きでもないのにどうして王女様の遣いで家に来たのかしら?」
「言われてみれば確かに。普通ここはレイヴィンさんか他の王女付きの騎士の人かよね」
笑顔で答える彼へとミラとベティーが不思議そうに尋ねた。
「そ、それは。ミラとベティーの幼馴染って事で僕が選ばれたんだよ」
「へ~。そうなんだ」
「幼馴染だからって選ばれることもあるのねぇ」
たじろぐマルクスへと疑問も抱かずに納得する二人。
「そ、それじゃあ僕は他にもこのことを伝えに回らないといけないから、またね」
これ以上何か言われる前にと彼はお店を出て行く。
「それじゃあ、私も帰るわ。ミラ、プレゼントを選ぶの一緒に考えてね」
「えぇ。勿論よ」
ベティーもそう言うと帰って行く。嬉しいお知らせを二つも聞いたミラは高まる胸の鼓動へと手を当て微笑んだ。
後日。ミラの姿は雑貨屋にあった。
「王女様へのプレゼントの品だからうちの店で一番高い商品を送ればいいと思うのよ」
「でも、高いからいいとも限らないわよ。もっと実用的な物の方がいいんじゃないかしら」
品物を見ながら二人はあれやこれやと話しながらプレゼントを選ぶ。
「こんにちは。あぁ、やっぱりここにいたのね」
「え、あら。ローズ様」
「いらっしゃい。ローズ様今日は何をお求めで?」
お店の扉が開かれ入って来たローズへと二人は振り返り声をかける。
「ベティーが王女へのプレゼントを選ぶって聞いて、わたしが直々にアドバイスしてあげようと思って来たのよ」
「それは助かります。王女様のご友人なら好みを知っていると思いますので」
「そうね。お願いした方がいいと思うわ」
彼女の言葉にベティーがにこりと笑い言うとミラも同意して頷く。
「それで、王女様はどんなものなら喜んでくれるかしら」
「そうね……」
ベティーの言葉にローズが店の中をぐるりと見まわす。
「あ、この手鏡は良いわね。それとこのブラシもセットでお願いするわ。あとは、レースのハンカチなんかも丁度欲しいと思っていたのよね。この白色とピンクをお願い」
「ちょ、ちょっと待って下さい。今日はローズ様の欲しい物じゃなくて王女様の好みそうなものを選んでもらうんですよ」
「そうよ、ローズ様が欲しいもの選んでどうするんですか」
彼女の言葉にミラが待ってと言って慌てて声をかけるとベティーも頷く。
「あ、あ~っと。そう、だったわね。でもわたしと王女は好みが似ているの。だからわたしが選ぶんだから王女もきっと喜ぶと思うわよ」
「なんだ、そう言うこと。分かりました。では先ほど言われた品をプレゼントで送ればいいのね」
たじろぎながらローズが説明するとベティーが納得して微笑む。
「プレゼントも選べたことだしわたしは帰るわね」
「はい。色々と選んで頂き有難う御座います」
彼女の言葉にベティーが笑顔で見送る。
「ミラのお店にもまた顔を出すから」
「えぇ。ご来店お待ちいたしております」
ローズの言葉にミラもにこりと笑いそう言った。
「それじゃあね」
「「……」」
彼女が帰って行くと二人は顔を見合わせる。
「ねえ、最近のローズ様なんか変よね」
「そうよね。王女様のプレゼントなのに、まるで自分のプレゼントを選ぶみたいな感じだったし」
ベティーの言葉にミラも頷く。
「何か秘密があるのよ。もしかしてローズ様は!」
「え?」
彼女が何を言い出すのだろうと身を乗り出して聞き入る。
「王族の隠し子だったりして」
「そんなわけないでしょ」
「そうよね。言ってみただけよ」
次に放たれた言葉にミラは呆れて溜息を吐き出す。ベティー本人も冗談だと言って笑った。
ローズが王女であると知るのはそう遠くない未来なのかもしれない。
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